2012-12-22

目薬αで殺菌します, 森博嗣

講談社文庫
2012-12-22 読了

一人称が出てきたので、身構えたが、自分の予想はまったく外していた。

なかなかメタな話の流れも展開を見せる。このシリーズ(Gシリーズ)はこれまでのタイトルでは、ギリシャ文字から始まっていたが、この本では(すでに出ているノベルズ新作もだが)そうなっていない。たぶんそれも意味がありそうだが。

木村美紀氏の解説が秀逸に思える。こんなに解説というか分析というか、しっかりと作品について書かれている「解説」はこれまでなかったのではないか(私が読んだことのあるのは基本的に文庫版だけだが)。

2012-10-13

有限と微小のパン, 森博嗣

講談社文庫
2012-10-13 読了 (3回目?)

S&Mシリーズ最終作かつ最長編 (860ページ)。読み終え、すべてが計算された設定ということに感じ入る。
真賀田四季登場。これまでの天才のイメージからはやや軽い感じがしないでもない。

2012-10-04

数奇にして模型, 森博嗣

講談社文庫
2012-10-04 読了 (3回目?)

西之園萌絵のおかげで、萌絵だけでなく犀川までがひどい目にあってしまう。西之園萌絵はがんがんに事件の関係者に突撃していくので、周りが迷惑を被っているようだ。まあ小説なのでよいが。実際にいたら大変なことになる。

名古屋市や名古屋大学などは、森博嗣の小説の舞台としてたびたび出てくるので、少しは観光資源として使えるのではないかと思ってみたりする。しかしまあ、森博嗣の小説を読んだことのある人は、多くてせいぜい0.1%のオーダーだろうから、難しいか。

「密室」はミステリ小説の定番。それによって、どうやってやったのかという疑問・謎を提示することができる。一方で、それが犯人を絞るための制約条件の一つとして必要な存在であるということに、今更ながら気づいた。すなわち、もし事件の起こった場所が誰でも入れるような状態であれば、それが事件を解く「鍵」には成り得ず、解が不定になるかもしれない。だから「密室」は謎解きのために必要なのだろう。

2012-09-22

今はもうない, 森博嗣

講談社文庫
2012-09-22? 読了 (3回目?)

珍しく一人称で記述されている。

土屋賢二が文庫版の解説を書いている。割と貴重かもしれない。そうでないかもしれない。

2012-09-17

夏のレプリカ, 森博嗣

講談社文庫
2012-09-17 読了 (3回目?)

前作「幻惑の死と使途」と対になる作品。「幻惑の死と使途」には奇数章しかなく、一方本作「夏のレプリカ」には偶数章しかない。時間が同時に進行しているようだが、今回も、2作を交互に章の順番通り読む、という読み方はしていないので、確かめていない。作者は「そのように読むと混乱するのは必至」のようなことを書いていた気がする。

この作品は雰囲気が独特(他にも独特な雰囲気の作品はあるが)。西之園萌絵がいつもほどには出張らないからか。とはいえ事件に十分首を突っ込んでいるのだが。また、ミステリにお約束ともいえる、最後に関係者を集めて探偵役が謎解き(の解説)をするシーンが、この作品にはないところが良い。

2012-09-14

幻惑の死と使途, 森博嗣

講談社文庫
2012-09-14 読了 (3回目?)

西之園萌絵が大活躍。相変わらずというか、事件に首を突っ込む度合いがさらにエスカレート(?)しているかもしれない。まあそうしないと小説としては面白くないだろうが。犀川だけが主たる登場人物だったら、そもそも事件にかかわらないだろうから、話が進まない。

犯人の家の場所はどうやって知ったのか、良く分からなかった。

犀川のセリフ(森博嗣の考え?)に大きく頷く。
テレビのディレクタが押し付ける感動なんてまっぴらだよ。オリンピックだって、テレビの台本じゃないか。原発反対も、博覧会反対も報道されるのに、オリンピック反対が何故もっと大きく報道されない? 高校野球はどうしてあんなに美化される? マスコミはマスコミを何故攻撃しない? 浜中君。もし君が偏った価値観から自分を守りたかったら、自分の目と耳を頼りにすることだね。テレビを捨ててしまえば、君の目は、少なくとも今よりは正しく、しかも多くのものを見ることになるよ

牧野洋子と西之園萌絵の、ホームページ、インターネットに関する会話の先見性に驚く(この作品のノベルズ版が出版されたのは1997年10月)。
「このまま、日本中の人がホームページを開設したりなんかしたら、もう情報が多過ぎて、結局は役に立たなくなっちゃうんじゃないかしら」
「たぶん、そうなるわ」萌絵は言う。「今みたいに一部の人がやっている間は価値があるけれど。だんだん、自分の日記とか、独り言みたいなことまで全部公開されて、つまり、みんながおしゃべり状態で、聴き手がいなくなっちゃうんだよね。価値のある情報より、おしゃべりさんの情報の方が優先されるんだから、しかたがないわ。でも、それはそれで、価値はないんだって初めから割り切れば、面白いんじゃないかしら。そんな気もする」
「カラオケみたいなもんね」洋子は頷いた。

考えてみると、インターネットがそれほど普及していなかった時代には、マスメディアが「おしゃべり状態」を独占していたが(それは「公共の電波」を使う上では今でも同じだが)、インターネットでは一般の人も「おしゃべり状態」に参加できるようになった、ということか。

引田天功(2代目)a.k.a PRINCESS TENKO が解説を書いている。

2012-09-09

封印再度, 森博嗣

講談社文庫
2012-09-09 読了 (3回目?)

ネタの一部は覚えていても、全部は覚えていないので、なかなか楽しめた。この作品のトリックが一番「理系っぽい」気がする。(どの作品の解説でも、いちいち「理系」について触れられるので、ええかげんもうええだろ、という気になるが)

ついに西之園萌絵が4年生になり、研究室に配属された。「すべてがFになる」では確か1年生だったから、時間の進み方は1作につき7〜8か月といったところか。

萌絵の叔母が初登場らしいが、存在感ありすぎで、全く、最初とは思えなかった。(もちろん私が何度も読んでいるせいだが)

2012-09-03

詩的私的ジャック, 森博嗣

講談社文庫
2012-09-03 読了 (3回目?)

作者が言うように、S&Mシリーズの3作目となって、犀川と西之園萌絵の関係がだんだん近づくというか、発展するというか、よく分からないが、ともかく変化している様子が面白い。とはいえ、殺人事件について、教師とその学生が議論しているというのは、結構不思議だ(犯罪心理学とかそういう講座なら、あるのかもしれない?)。

物語の舞台の(?) N大学工学部4号館や、その中庭の実験室は、「今はもうない」。

2012-08-26

ベイジン (上) (下), 真山仁

東洋経済新報社
2012-08-26 読了 (図書館)

事前情報なく図書館で見つけて読んでみた。すると、この作者お得意の(?)経済小説とはちょっと違い、日本の原子力技術者と中国の役人が中心となって世界最大の加圧水型原子炉を中国に作るという話。ちょうど北京オリンピックが開催された2008年夏に向けて、雑誌に連載されていたようだ。

様々な登場人物が、それぞれの視線・立場から、オリンピックや原発にかかわっていて、いろいろな読み方ができると思う。自分はやはり、技術者が可能な限りの力を尽くして、安全で素晴らしい発電所を作り上げるというところに惹かれる。巨大なプロジェクトなので一筋縄ではいかないところも良くできていると思う。逆に、映画監督の筋は必要性が良く分からない。

後半の発電所での事故は、福島第一原発の事故を彷彿とさせる。現実は小説よりも奇なりとはよく言ったもので、現実の福島のほうがはるかに深刻な事態を招いてしまっている。それにしても、全電源喪失やベントなど、有名になってしまったことがらを、見てきたように描いているのはすごい。奇しくも、小説内でも言及されているが、原発はどこか一つで重大事故が発生すると、世界的にアゲインストの影響が出るということだ。核分裂を制御し、そのエネルギーを取り出す技術自体はすばらしいと思うが(廃棄物の問題は残るが)、実際にそれを作るのは実験室のような他の影響のない理想空間ではなく、雨も降れば風も吹く、地震もあれば津波もある地球上で、しかもそちらを制御するのはほぼ不可能というところが、根本的な問題か。施設の規模を小さくして立地の制約を緩くするとか、太平洋どまんなかの深海底で稼働できるようにするとか、が必要か? すでに検討されているかもしれないが。

神戸・元町の中華街(南京町)も舞台の一つになっている。そこに出てくる中華料理店「小小心縁」は実名で存在するらしい。

2012-08-24

バイアウト (上) (下), 真山仁

講談社
2012-08-24 読了 (図書館)

ハゲタカ」の続編。
世の中の(というかマスメディアが作り上げた?)買収ファンドのイメージでは、弱い相手に対して資金力にものを言わせて買収してしまう、という感じだと思うが、この本では(そして実際は)、情報力・交渉・駆け引きなどの能力が重要という。実際にそうだろう。

ところで、かの Warren Buffett は、株式投資で米国第2位の資産を築いたとよく言われるが、「スノーボール」によると、投資した会社に自ら乗り込んでいったりする(経営する)こともあるようだ。そう考えると、本質的には両者に違いはないことになる。

株は英語で share とか stock とか equity とか呼ばれる。share は端的に「会社の所有割合・区分所有」ということだろう。というわけで当たり前だが、株式投資とは会社(の一部分)を買うことに他ならない。

またその株式が上場(公開)されているということは、会社(のある割合)を自由に売買できるということだ。買われたくない会社は非上場にするしかない。

鷲津のセリフが端的:
株式市場に上場したら、会社を買ってくださいという意味だと、私が日頃から申し上げている...

そう思うと、日本は「最も成功した社会主義国」と言われることがあるが、曲がりなりにも株式市場があるのが殆ど奇跡的に思える。

2012-08-19

金持ちいじめは国を滅ぼす, 三原淳雄

講談社+α新書
2012-08-19 読了 (図書館)

タイトルに惹かれて借りて読んでみたが、タイトルは単に多くのトピックのうちの一つを示しているだけのようで、いつものように(?)政府・国会議員・官僚・日本人・などなど、やや大づかみではあるが、最近の風潮に反して正論と思える、ときに耳の痛い主張を堂々と披露されている。

まえがき
2100年にどういう日本を残したいか、将来の孫子のためにどんな国を残すか、そのために自分は何ができるか、一度ぜひ考えてもらいたいのである。

第1章
日本の将来は具体的には、「金融立国」「投資立国」「ブランド立国」「知財(知的財産権)立国」ということになるだろう。もはや額に汗して機械の代わりになるような労働力が主体になる経済など、日本では絶対にありえない。

2012-08-17

真相ライブドアvs.フジ, 日本経済新聞社(編)

日本経済新聞社
2012-08-17 読了 (図書館)

この本は、2005年の株式会社ライブドア(当時)と株式会社フジテレビジョンによる、株式会社ニッポン放送の株式争奪戦およびそれによる株式会社フジテレビジョンの経営権を狙った一連の出来事について書かれている。それが一応の結論をみた直後に出版されているようだ(2005年6月22日発行)。なので、もっと劇的な、その後の強制捜査および堀江氏らの逮捕、刑事・民事訴訟については触れられていない。

副題が「日本を揺るがした70日」とあり、その間の両者および関係者の動きなどは分かりやすくまとまっている。また株式会社ニッポン放送と株式会社フジテレビジョンの資本が逆転関係になった経緯についても触れられており、納得できた。

しかし、天下の日経新聞が書いた本にしては、様々な戦術や経済的概念などについての記述が物足りない。まるで一般紙を読んでいるようだ。しかも、株式分割で株価が上昇したことの説明は、重要な点が明らかに不足していると思われる。Wikipediaには

この現象の原因の一つには、分割権利落日(2003年12月26日)には1株単価が100分の1になるが、当時、新株は制度上の理由からおよそ2ヵ月後(2004年2月2日)にならないと受渡が行われなかったので、その間、流通株の時価総額が分割前の100分の1となり需給が逼迫したとされている。

とあるし、橘玲「臆病者のための株入門」でも、当時の制度上の欠陥を主因に挙げ、株式分割で株価が上昇したメカニズムを分かりやすく解説していた。それに対してこの本では

株式分割をやっても企業の価値自身に変化はないので、本来は分割で時価総額が大きく変わることはない。ところが実際には分割すると、新株が流通するまでの一時期、株式市場に出回る株券が相対的に少なくなり、受給が逼迫、わずかな買いで株価が上昇しやすくなることがある。(p. 67)

と、制度上の問題点については触れられていない。しかもこの少し後の部分には

ちなみに、大幅な株式分割に対しては、東京証券取引所などが上場企業に実行しないよう要請。今では事実上、実施できなくなった。大幅分割は違法行為ではないが、それだけ「危うさ」のつきまとった手法だったのだ。

と書かれている。もちろん株式分割の事務処理に多少の手間はかかるだろうが、しかし上の引用部分にも書かれているとおり、株式分割は本来企業価値に関係ないし、小口にすることで売買が活発になり、証券取引所にとっても悪くない話のはずだ。邪推するに、取引が小口化されすぎると、取引所で捌かなくてはならない取引数が莫大になり、(貧弱な)取引システムでは追いつかなくなるので、あまり分割しないでください、というお願いベースの話だろうと思う。それを「危うさのつきまとった手法」と言ってしまうのは、本当に「経済」新聞かと驚く。

また、この本には関係ない部分ではあるが、その後の証券取引法違反容疑での捜査・逮捕・裁判などは、同様な証券取引法違反(粉飾決算)をやったカネボウ株式会社や日興コーディアルグループにくらべてはるかに重い社会的制裁を受けた。しかもライブドアは利益を水増ししたとされていて、そのために余分な納税も行なっているらしい。「伝統ある」日本企業はそうとうなことをやっても、会社が潰れるくらいにならないと立件されないし、上場廃止にもならなかったのに対し、ライブドアのような「ぽっと出の」会社は、強制捜査をやろうが、それで株価が下がろうが、上場廃止にしようが関係ない、のだろう。そのような「出る杭は打たれる」ような社会にしておきながら、一方で、日本には起業が少ない、とか言っているのは一体どういうつもりなのだろうか。ライブドアがどのような事業をしていたか詳しく知っていたわけではないし、それを擁護するつもりはないが、この事件をきっかけにしてもたらされた日本の新興市場の冷え込みや社会の閉塞感などが回復することはあるのだろうか。

この本が対象にしている期間では、この対決は日本を揺るがしたのではなく、既得権益に守られたテレビや新聞などマスメディアの関係者が揺さぶられたのだろう。それでもニッポン放送やフジテレビジョンは、上場しているためにこのようなターゲットになり得た。株式会社日本経済新聞社、株式会社読売新聞グループ本社、株式会社朝日新聞社、株式会社毎日新聞社はすべて非上場。おかげでこのようなターゲットになる心配はないし、上場に必要な情報公開はしなくていい。もちろんわざわざ上場して市場から資金を集めてやるほどの事業がないのだろうし、企業価値が上がらなくても良いのだろう。

ところでこの本を読んで思い出したことが一つ。この騒動の最中に堀江氏がよく言っていたセリフが
想定の範囲内です。
であった。

2012-08-16

世に棲む日日, 司馬遼太郎

文春文庫
2012-08-15 読了 (2回目?)

前半は吉田松陰、後半は高杉晋作。

このような英雄的な人物というのはどのようにして生まれるのか、というか、現れるのか、という点に興味がある。歴史・人物を網羅的・系統的に見たわけではないので分からないが、少なくとも、歴史小説の題材になるような人物は、天下泰平の時代には少ないように思える。

幕末に活躍し、名が残っている人物には傑出した人が多いように思われるが、それは幕藩体制から維新という時代の激動期に活躍したから名が残ったのか、それとも、そのような人物たちが現れたから時代が変化したのか。おそらく両方の要因があるだろうが。

高杉晋作が泰平の世の中に生まれて、クーデターを起こそうとしても、維新ではなく乱や一揆で終わってしまうかもしれない。しかし、例えば、アリの社会では、ある集団のなかから「働きアリ」を取り除くと、働かないアリだけになってしまうのではなく、残りのアリの中から働きアリが現れるという(ソースが見つけられないが)。

いわゆる「生き残りバイアス」があるのでマクロな?歴史の研究はなかなか難しそうだ。

マクロな歴史の研究というと、ジャレド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄 (Guns, Germs, and Steel)」が思い浮かぶ。

とりとめもなく。つれづれに。

それにしても、27歳でその生涯を終えるとは。そんな短い期間で歴史に残ることを成し遂げるということに驚く。

2012-08-11

笑わない数学者, 森博嗣

講談社文庫
2012-08-11 読了 (N回目?)

森博嗣のミステリィ工作室」でのこの作品の「あとがき」に、
『笑わない数学者』は、ミステリィの枠組みの中に、より高尚な(あるいは役に立たない)謎(ミステリィ)を入れ込んだストラクチャを持っている。
と書かれていたのが気になった。また、森博嗣の公式ホームページ「森博嗣の浮遊工作室」の中のこの作品の紹介にも
北村氏より頂いた凝った推薦のとおり、トリックは簡単で、誰でも気づくものです。意図的に簡単にしたのです。しかし、トリックに気づいた人が、一番引っかかった人である、という逆トリックなのですが、その点に気づいてくれる人は少ないでしょうね。でも、少なくとも北村氏は気づいたのですから、森としては、これでもう十分です。
と書かれていることに最近(というか今)気付いた。でもよく分からない。この作品に限らず、森博嗣の作品中には詳細が明かされない記述などがよくあるが、自分はほとんど考えていないので、そのような記述は素通りしてしまう。そのような読み方だと何度読んでも新しい発見がある、と好意的にとらえておこう。

この作品名でgoogle検索してみると、amazonや作者のホームページでなく、一般読者 (?) のネタばれ解釈のページがリストの上のほうにきていた。ただそれらをいくつか見てみても、「逆トリック」というのが何を意味しているのかよく分からない。

2012-08-07

冷たい密室と博士たち, 森博嗣

講談社文庫
2012-08-07 読了 (N回目?)

この作品が、実は森博嗣が一番最初に書いた小説らしい。

西之園萌絵が、県警本部長の叔父を持つという立場をフルに活用して、事件に深入りしすぎるところがすごいというかなんというか。これが小説でなかったら大変だ。少なくとも不法侵入で、刑事事件は不起訴にしても大学は停学処分くらいになるのではないか。こちらも元総長の娘&県警本部長・県知事妻の姪という立場を生かしてもみ消したか。

森博嗣のミステリィ工作室」に本人が書いていたとおり、森作品にしては珍しく動機の記述が多い。

UNIXの talk とか懐かしい感じ。

2012-08-05

森博嗣のミステリィ工作室, 森博嗣

講談社文庫
2012-08-05? 読了 (N回目?)

森博嗣が選んだ100冊の本、S&Mシリーズについての「あとがき」的な解説(?)、専門誌に書いたエッセイ(?)など、森博嗣のファンのための作家情報本(?)。オリジナルはハードカバーで1999年に出ているようだ。小説を書き始めて3年ほどの頃のようだ。この頃はまだN大学にお勤めの傍ら、作家業をしていた。

別の本に書かれていたと思うが、何度か自宅の引越しをされていると思う。この頃はまだそれほど広い庭がなかったらしく、軽便鉄道も比較的ささやかなものだ。

目次に100冊の本の名前があると便利なのに、と思っていたら、巻末にタイトルと人名の索引が付いていた。

四季 冬, 森博嗣

講談社文庫
2012-08-05 読了 (2回目??)

いつ頃の時代の話かよく分からないが、かなり後のようではある。おかげでややSFチックな雰囲気がある。まあ森博嗣の作品はいろいろな機械などが出てくることも多いので、少なからずSF的でもあるが。

かなり模糊とした雰囲気。と感じるのは私だけか。

この作品だけでなく他の作品にも確か書かれていたが、人間の細胞は、古いものから新しいものにどんどん入れ替わっているので、そのようなことを突き詰めて考えれば、個人個人の identity は記号しかない、というのはそんな気がする。そうであれば、身体と人格(精神?)は原理的には分離可能ということになるのか?しかしそれが進化(変化)を続ける、というところが本質かもしれない。とするとやはり身体あってのものという気もする。


これでこのシリーズを全て読んだことになるが、以前借りて読んだ話と本当に同じなのか、そこが全く分からない、というか記憶がない。自分がなにか勘違いをしているかもしれない。

2012-08-01

四季 秋, 森博嗣

講談社文庫
2012-08-01 読了 (2回目?)

犀川・西之園のコンビが全面的に出る。ほとんどS&Mシリーズ。かつ登場人物はやっぱりVシリーズからも。他にもあやしい人の名前がでる。シリーズものの大枠構成がここに集まる、という感じ。

場所もいろいろ変化。

2012-07-29

四季 夏, 森博嗣

講談社文庫
2012-07-29 読了 (2回目?)

」よりも成長した(=歳をとった)時期の話。

前作では、無駄なことをしない、とか、完璧とかということが連想されたが、少し歳をとって他の人の鈍さが理解できたのか、丸くなったのかわからないが、やや人間らしさが出てきた印象。

しかし「すべてがFになる」の舞台である妃真加島の研究所がほぼ完成した頃に起こった事件は、やっぱり凡人には理由が分からない。また「F」でも、天才ならば人を殺さなくてもよい方法はいくらでも考えついたのではないかと思うが、おそらく一般的な社会通念とかは通用しない存在なのだろう。

Vシリーズの準主役らしき絵画泥棒が出てくるのはご愛嬌か(名前は明かされていないので実際のところは誰だか分からないが)。そもそも森博嗣の小説では名前がわかったところで、多重人格とか別名とか、いろんな可能性があるので油断はできないのだが。

2012-07-28

四季 春, 森博嗣

講談社文庫
2012-07-28 読了 (2回目?)

辛抱たまらず、買って読んだ。早速これまでのシリーズでのキーパーソンがいろいろと登場する。

それも興味深いが、「僕」が誰なのか見失ってしまい、何度も前を見返してしまった。

「天才」の描写。それを崇める人もいるだろうが、大半の人は恐れを抱くのではないか。

「神様の仕事は、人を騙すことです」四季は言った。

2012-07-24

すべてがFになる, 森博嗣

講談社文庫
2012-07-24 読了 (4回目?)

さすがに何度も読んでいるので、大まかな筋は覚えていた。しかしそれにしても、ストーリィの流れや緊張感など、何度読んでもすごいと思える。

よく森博嗣は「理系」作家と呼ばれるようだが、表面的な意味での理系小説(?)は、この作品の他はそれほど無いのではないかという気がする。この作品中にてんこ盛り(UNIX, トロイの木馬, Virtual Reality, ...)で、かつ、これが森博嗣の小説の最初の作品になったので、ことさら強調されているのではないか。

外部のネットワークから大学のマシンにTELNETで接続するシーンは、今のご時世ではまずありえないので、昔の性善説的ネットワークの時代を垣間見る思いでなかなか微笑ましい。

2012-07-22

巨大地震 巨大津波 東日本大震災の検証, 平田直, 佐竹健治, 目黒公郎, 畑村洋太郎

朝倉書店
2012-07-22 読了

2011年11月に第1刷が出ているので、地震後にすぐ原稿を準備し始めたであろうことが想像できる。そういう意味では、知識を網羅的に盛り込んだ教科書的な本ではなく、それぞれの専門家がそれぞれの視点で地震・津波・災害・原発などについて「熱い」状況で語った、という感じだろう。

さまざまな調査・研究に基づく話は説得力がある。

畑村氏担当部分に寺田寅彦「津浪と人間」からの一節が引用されているが、人間と災害に対する関係について示唆に富む。

こういう災害を防ぐには、人間の寿命を十倍か百倍に延ばすか、ただしは地震津浪の週期を十分の一か百分の一に縮めるかすればよい。そうすれば災害はもはや災害でなく五風十雨の亜類となってしまうであろう。しかしそれが出来ない相談であるとすれば、残る唯一の方法は人間がもう少し過去の記録を忘れないように努力するより外はないであろう。

2012-07-13

赤緑黒白, 森博嗣

講談社文庫
2012-07-13 読了 (2回目?)

Vシリーズの最終作。シリーズ1作目に出た人物や、S&Mシリーズの重要人物(?)も登場。

この話に限らないが、瀬在丸紅子は確かに事件の謎は解いているが、だからといって物証がそろっているかどうかは別の問題なので、それだけで犯人が検挙できるかどうかは難しいのではないか、というおもしろくないことを考えてしまう。

ところで、この作品でS&MシリーズとVシリーズとの関係性が明らかになると記憶していたが、それほど明確に記述されているわけではなかった。頭の回転が速い人は気づくかもしれないが...

とすると、「四季」シリーズか。これは人から借りて読んだので、再読するためにはまた借りるか、買うかしないといけないなあ。

2012-07-11

朽ちる散る落ちる, 森博嗣

講談社文庫
2012-07-11 読了 (2回目?)

六人の超音波科学者」の感想には「流れ的にはちょっと一服」などと書いてしまったが、案に反して、話には続きがあった。

例の短篇集の中の話に登場した人物とか、この本だけ独立に読んでも楽しめるだろうが、シリーズを通じた大きな流れを追う楽しみは、全著作を読まないと味わえないかもしれない。そのように10作以上に関連を持たせているということは、やはり最初の構想段階からそれだけ執筆するという計画があり、それを実際にやってのけた、ということか。

ところで、今更ではあるが、森博嗣の話には、お金持ちが登場することが非常に多い。以前、たしか「森博嗣のミステリィ工作室」だったと思うが、「森博嗣が選んだミステリィ100冊」のなかに筒井康隆の「富豪刑事」が紹介されていた。作風は全く異なるが、もしかしたらそこからインスパイアされている部分があるのかもしれない。まあそれでなくても、金持ちという設定にしないと、変わった建物とか執事とかお手伝いさんとかが登場できないし、話の幅がだいぶ制限されそうだ。

2012-07-08

捩れ屋敷の利鈍, 森博嗣

講談社文庫
2012-07-08 読了 (2回目?)

今回は、Vシリーズでありながら、保呂草潤平となぜか西之園萌絵がメイン。タイトルの文字通り、捩れた屋敷が舞台だが、シリーズ全体の流れもちょっと捩れているか。タイトルもそれを暗示しているのかもしれない。

例のお宝も登場。

Vシリーズを読み直すのは3回目だと思っていたが、もしかしたら2回目かもしれない、と思ったのは、ラストの保呂草潤平と瀬在丸紅子が話すシーンの会話にドキッとしたから。もちろん1回目でもドキッとしただろうが、その時はなにも気付いていなかったのでそのまま忘れてしまっていたのに対して、さすがに大きな設定だけは忘れていないので、こんなところにこんなことが書かれていたのか、という感じを味わうことができた。

そういう意味では、(頭の回転が悪い・記憶力の悪い)私のような読者には、二度(以上)おいしい小説。

いつもどおり、この小説を読んでいない人にはなんのことか全く分からないと思うが、ネタばらしをしても仕方ないので、こんなところで。

2012-07-06

六人の超音波科学者, 森博嗣

講談社文庫
2012-07-06 読了 (3回目?)

山奥の研究所が舞台。閉ざされた環境(?)で王道か。

流れ的にはちょっと一服(?)
ミステリ部分には全く関係がないと思うが、短編集に出てくる話がすこし関連している。

立川志らくの解説が良い。まあ「解説」といっても、小説の解説とはなにか、まったく分からないが。

2012-07-01

恋恋蓮歩の演習, 森博嗣

講談社文庫
2012-07-01 読了 (3回目?)

今度は客船が舞台。乗り物シリーズ?

前回と同じ画家の名前がでる。ついでに前回と同じ、謎のルポライター(?)の名もでる。いよいよ中盤か。とはいえそんな気負いは皆無(?)

かなり強引な手法で(?)、いつものメンバー、特に紅子と練無も船に乗り込む。まあお約束か。

あとで読み返すと、あとがきに書かれているとおり、たしかに、「最初からネタをばらしているのである。」しかしいつもいつも、まったくトリックが分からない。まあそんなに考えながら読んでいるわけではないので、結末がわかっても、悔しい、とかの感情はなく、「えっ」と、ちょっと驚かされるくらいだが。

ちなみに英語タイトル "A Sea of Deceits" の Deceits は、だまし、偽り、などの意味があるようだ。

2012-06-25

魔剣天翔, 森博嗣

講談社文庫
2012-06-25 読了 (3回目?)

このシリーズのキーポイントとなる(?)作品。たぶん。例のアイテムが登場するので。

それにしても、相変わらずコロッと騙される。

何事も疑ってかかる、というのは重要な心がけかも知れないが。

2012-06-23

復興特別所得税創設、大増税時代到来?

今気づいたが、「復興特別所得税」というものが去年新設されていた。平成25年から平成49年まで、通常の所得税額の2.1%が追加で徴税されるようだ。

どうやら、まもなく消費税も増税になりそうだし、すでに所得税控除の対象も次々と減らされているし、まさに大増税時代の到来か。

消費税が導入されるときや、税率が上げられるときなどは、「福祉目的に使途を限る」などが言い訳としてよく聞かれたが、今は「復興」がキーワードのようだ。

もちろん、震災からの復興にお金がかかるのは理解できるが、本当に無駄はないのか。余計な「事業」を行うために予算が費やされていないのか。

財務省の目的は債務の縮小だろうから、歳出も絞るだろうが、国の収入増=税率up もしたいだろうし、一旦上げた税率は「暫定」だろうがなんだろうが、引き下げるのはまず期待できないだろう。今回の「復興特別所得税」も、25年間も続くという。ほとんど「恒久増税」と言っているに等しい。たぶん25年後には、所得税本体もだいぶ上がっているだろうから、本体に吸収されるか、名前を変えて続くか、いずれにせよ、なくなることはないだろう。

香港は英国が99年間という約束で借りていた。それが始まったときはほとんど無限という意味だったようだが、1997年に約束通り中国に返還された。

消費税が上がるなら、他のこのような「暫定」「特別」税がなくなるとか、所得税率を引き下げるとか、バランスをとるならよいのだが、なかなか望みは薄そうだ。

このままいくと、「高税率・低福祉」の国が実現しそうだ(もう実現しているか?)。

もしかして、物価が全然上がらないので、消費税を上げてインフレ状態にしようとしているのか?というブラックジョークも言いたくなる。

これで景気が良くなるわけがないだろうなあ。orz...

2012-06-18

夢・出逢い・魔性, 森博嗣

講談社文庫
2012-06-18 読了 (3回目?)

英題が "You May Die in My Show". 日本語タイトルもだが、それぞれ洒落っぽくなっているのに(それなりに)意味が通るという、センスが光る。

またまた設定がむちゃくちゃ(面白いけど)。TVのクイズ番組で、女子大生3人組の大会に、なぜか紫子、練無、紅子の組で出てしまうという。このような話を作りたいために、キャラをこんなはじけた感じにしたのか。

2012-06-16

月は幽咽のデバイス, 森博嗣

講談社文庫
2012-06-16 読了 (3回目?)

間違えた。この前「黒猫の三角」の感想に書いた昔の印象は、こちら「月は幽咽のデバイス」の舞台である篠塚邸(「那東区」一社付近が舞台らしい)の記憶だったようだ。

Vシリーズの3作目。

ものすごい仕掛けだが、こんなのを想定するためにはやはり、森作品に頻出する、超富裕層でないとありえない。まあ、家にお手伝いとか執事がいたりとか、中流以下ではありえない設定が多いし。でも、普通の中流階級ばかりを舞台にしても、そもそも家が狭くて大勢お客が集まれないし、(トリックになり得る)密室にもなりにくいし、推理小説でお約束の、広間に全員を集めて探偵が「さて皆さん、」とやることもできないので、そこはまあ保守本流か。

人形式モナリザ, 森博嗣

講談社文庫
2012-06-16 読了 (3回目?)

というわけで、Vシリーズを再(再?)読している。
登場人物が多いので、文章を読んでいくだけではその続柄が理解できなかった。しようともしていなかったが。この作品に関しては、始めについている「登場人物」一覧が嬉しい。いつもは、ここはあえて見ずに読み進めるのだが。

相変わらず設定がむちゃくちゃというか、阿漕荘の4人組がなぜか一緒に蓼科に行くことになり、そこで偶然にも(?)事件に遭遇する。さらに偶然にも、林や祖父江も同じ場所に休暇で来ていて、休暇なんだか仕事なんだか、わからなくなるという。

主に香具山紫子と小鳥遊練無の会話が醸しだす、おちゃらけた雰囲気とは裏腹に、キーワードとして「悪魔」「神」というやや重いというか、おどろおどろしいというか、S&Mシリーズにも通じる雰囲気もある。ちょっと苦手だ。

いまタイトルを見て気づいたが、作中で提示される一つの軽めの謎のヒントになっているのかもしれない。

それにしてもよくこれだけ複雑なことを考えられるもんだと思う。世の中は単純ではないが。

まったく関係ないけど、発想・思考の柔軟性を持ちたいものだ。

2012-06-12

黒猫の三角, 森博嗣

講談社文庫
2012-06-12 読了 (3回目?)

1つ前に読んだ「ゾラ・一撃・さようなら」に「天使の演習」というアイテムが出てきたので、確かこのVシリーズにも似たような名前のものが出てきたようなきがしたので、なんとなく、読み返してみた。

少なくともこの作品には出てこなかった。しかし何年ぶりに読んだか忘れたが、話の大筋すら覚えていなくて、新鮮な気分で読むことができた。そして、結末に、またやられた、という感じを味わうこともできた。

以前読んで自分の中に残っていた印象では、物語の舞台である桜鳴六角邸は、なんとなく、なぜか八事あたりの坂をイメージしていたが、今回読んだら、そのイメージはもっと平面的な公園のような場所に変わった。(実際はこれのモデルになった建物は名古屋にはないようだが)

クロネコのデルタ。

本筋とは関係ない、紅子のなぞなぞ(?)とか語りがおもしろい。解説にあるのは正解だろうか。あまり、なるほど、という感じがしないので、たぶん違う気がする。

紅子の設定が、なんとなく、後期(?)とは違う気がする。気のせいかもしれない。

2012-06-10

ゾラ・一撃・さようなら, 森博嗣

集英社文庫
2012-06-10 読了

ハードボイルドと形容されているようだが、確かに、これまでの森博嗣の小説とはまた違う雰囲気。まあ全部雰囲気は違うのだが、私の言葉が不自由なのでなんとも説明に窮する。だれも説明は求めていないだろうが。

そもそも私は、ミステリ(ほぼ森博嗣しか読まないが)で犯人探しをすることは諦めているが、これは早い段階から作中でほのめかされている。そういう意味でもこれまでの小説とは違うかもしれない。

森博嗣の小説の中では短いほうだと思うが、しかし、登場人物がなかなか魅力的だ。これは(無理だろうが)ファンとしては続編を期待したくなる。

2012-06-09

電球販売の自粛よりテレビ放送の自粛のほうが効果が高い

こういう記事には延髄反射で反応してしまう:

夏の節電対策、白熱電球の販売自粛を…政府方針
読売新聞 6月9日(土)14時47分配信

今夏の節電対策のため、政府は家電量販店やメーカーに対し、電力消費の多い白熱電球の販売・生産の自粛を求める方針を固めた。
(以下略)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120609-00000495-yom-soci

これは、業界も白熱電球の生産からはシュリンク気味で、もっと利幅の大きいLED電球や電球型蛍光灯などを売りたいだろうから、むしろ業界が政府にはたらきかけた可能性もあるのではないか。(政府はなにかやっている、というようにアピールできるし、業界も、LEDなどの宣伝になり、ひょっとしたら売上も増えるかもしれない)

しかし、確かに60Wの消費電力の白熱電球を、数WのLED電球に替えるのも良いかも知れないが、それなら、しょうもない番組で公共の電波を独占しているテレビの、夏季昼間の放送停止を要請してはどうか。エアコンと違って、テレビを消しても健康に害がないばかりか、むしろ健康増進にも役立つかもしれない。液晶テレビが普及しているようだが、それでも数100Wの消費電力がある。

明らかに、これは電機業界や放送業界の利害と真っ向から対立するので、間違ってもこのような要請はできないだろうが。

本当に効果がある(意味のある)政策はほとんどとれないし、このようなほとんど意味のないことを実施するための役人・部署がある、というのが無駄に思える。

アルケミスト, パウロ・コエーリョ (作), 山川紘矢, 山川亜希子 (訳)

O Alquimista, Paulo Coelho
角川文庫
2012-06-09 読了

世界的なベストセラー(らしい)。
読む時期によって感じ方が変わるのだろう。若いうちに読んだほうが、感じるところは大きいように思える。
中年リーダーにとっては、Amazon の書評にあるように「だまされたと思って一読..」と人に勧められるほど、くるものはなかった。

訳者のあとがきに、英語版を翻訳して日本語版を作った、とある。もしかしたら、オリジナルのポルトガル語からだと、違った日本語になるかもしれないな、と思う。

「科学的思考」のレッスン, 戸田山和久

NHK出版新書
2012-06-05 読了

科学の知識そのものはどんどん陳腐化していくが、科学の思考方法は変わらない。それをいくつかのステップに分けて勉強することができる。はじめの2~3の章を読むだけでも、この本を買う価値がある。

2分法的思考はヤバイ

しかも第2部では、3.11後の放射線問題を例に、「なにか難しいことは専門家に任せておけば良い」というような考え方は非常に危険で、市民がそのリスクに向きあい、他のリスクと比較した上で、ひとりひとりがどう行動するかを選択する必要がある、と説く。

大変情報量が多い。

2012-05-29

日本の津波災害, 伊藤和明

岩波ジュニア新書
2012-05-29 読了

日本で発生した主な津波災害について、全体像だけでなく、代表的な証言(体験談)などもまとめられている。昔の津波における被災者・目撃者の証言を読むと、昨年の東日本大震災での津波の映像が記憶に新しいため、その情景が非常にリアルに想像できる。

別の言いかたをすれば、地球の営みに対する人間側の経験不足が、"想定外"とか"未曾有の"という表現になっているともいえましょう。

2012-05-19

人口動態統計

以前のエントリで、日本の原因別の年間死者数の統計としてどのようなものがあるか関心をもったので、Internetで検索してみた。すると、厚生労働省が「人口動態統計」という名前で、毎年(速報は毎月)発表されているようだ。


あたりまえといえばあたりまえだが、死因は病気が一番多い(だから厚生労働省が調査しているのか?)。しかし、気になるというか、見逃せない点として
  • 自殺者が年に3万人近くいる (2010年は29,554人)
  • 15歳から39歳までの死因のNo.1は自殺
  • 出生数は、1970年台前半の第2次ベビーブームの時は、年間200万人くらいだったのが、2010年は107万人
  • 婚姻件数はそれに比べたら減り方は緩やかで、 1970年台前半が約100万件/年に対し、2010年は約70万件
  • 離婚件数は急増: 1970年台前半の約10万件/年に対し、2010年は約25万件/年
などが目を惹く。

また、別の視点で、いわゆるガンだと思うが、「悪性新生物」が原因で亡くなられた方は、2010年で35万人で、人口10万人あたり280人の割合。これを多いと見るか、少ないと見るかはともかく、このようなデータがもとになって、(必要経費をガツンとのせたうえで)ガン保険などの保険料が決められているのだろうな、と思った次第。当然、これらのデータは年齢別にもあり、さらに都道府県別にもなっていて、保険業界には至れり尽くせり。こんなデータがタダで手に入るのなら、いったいなにに「経費」をかける必要があるのか知りたいものだ。所得税の控除でも、生命保険は優遇されているし。

はてしない物語, ミヒャエル・エンデ (作), 上田真而子, 佐藤真理子 (訳)

Die unendliche Geschichte, Michael Ende
岩波書店
2012-05-14 読了

赤いハードカバーに2色刷。豪華です。でも意味があります。

メインの仕掛けは想像はできたが、さすがに500ページ強のボリュームで飽きさせない。
テレビゲームのRPGみたいにある種のハードルがいろいろ出てくるが、そこは小説、割とあっさりクリアされる部分が多い。
最初は、よくもまあ、こんなに想像力たくましく、いろんな生物を考えることができるな、と思ったが、これも作者自身の「創造物」。

いろいろと良くできている。

ものの感じ方は、読者の歳というか経験によって変わると思うが、発行元のお薦めどおり、小学6年生や中学生のときにこの本を読んだら、本に対する見方が変わっていた可能性がある。

Amazonの書き込みにあったが、文庫版を買うよりは、少し高くて大きくて重いが、ハードカバー版がよい。

2012-05-08

まぐれ, ナシーム・ニコラス・タレブ (著), 望月衛 (訳)

Fooled by Randomness, Nassim Nicholas Taleb
ダイヤモンド社
2012-05-08 読了

以前読んだ、同じ著者の「ブラックスワン」と同様に(出版はこの「まぐれ」の方が先)、話があっちゃこっちゃにとんで、かつ、例としてあげられている話や説明も、わざと分かりにくく言っているようにも見え、結局言いたいことがなにか、つかむのが非常に難しい文体だが、著者自身が書いているとおり、これはエッセイらしいので、そう思うと、少しだけ気が休まる。

それにしても(本筋以外の?)話題は非常に広範に及ぶ。神話や哲学、疫学、複雑性の科学、心理学、そして経済学。

だがこの著者の立場は、とにかく、正規分布や人間の合理的な行動などを前提とした、スタンダードなファイナンス理論などは、現実にはまったく役に立たない、ということのようだ。「ブラックスワン」でさらに話題になっているように、例えば市場における株価の変動は、正規分布にはならないし、滅多におこらないはずの大暴落など「10シグマの外れ値」も数年に1度は起こっているような気もする。たしかにそれを受け入れたら、年金基金などが一般に使っているように、過去の価格変動の標準偏差でその資産のリスクをはかる、というやり方では、当然ながらリスクを評価したことにはならない。さらに危険なことに、実際はそうではないのに「リスクを抑えた運用」などをしているつもりになってしまっているかもしれない。

個人的には、行動ファイナンスの話が面白かった。Daniel Kahneman, Amos Tversky の名前が何度も登場した。

著者は13章, 14章がいちばん言いたかったことのようだが、残念ながら私にはまったく分からなかった。それでも豊富な挿話やキーワードを見るだけでも、楽しめた。

以下、特に気になった記述を引用:

(2章) ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴァスキーの実験:
ほとんどの人は、北アメリカのどこかで(何千人もの命を奪うような)壊滅的な洪水が起きる可能性よりも、カリフォルニアで地震があって(何千人もの命を奪うような)壊滅的な洪水が起きる可能性のほうが高いと判断する。
人は何か抽象的なことに対して保険を掛けるのを嫌う。彼らが注意するのは、いつも、もっと生々しいリスクのほうなのだ。

(2章) リスクに気づいたりリスクを避けたりといった活動のほとんどをつかさどるのは、脳の「考える」部分ではなく「感じる」部分なのだ(「リスクは感覚」だとする理論がそれだ)。リスクを避けようとするとき、合理的な考えは少ししか関係ないし、ほとんど関係ないと言っていい。

(3章) 期間を短くとると、ポートフォリオのリターンではなくリスクを観察することになる。つまり、見えるものはほとんどばらつきばかりだ。

(4章) 進化とは一つの、かつ、たった一つの時系列に適応することであって、あり得るすべての環境の平均に適応することではないのだ。

6章では、頻度(確率)と期待値の違いが述べられている。分布が対称なら、両者の違いはあまり気にしなくてよいが、非対称(稀にしか起こらないが、起こると大損・大儲けすることがあるなど)なら、頻度でなく期待値を考えないといけない。

(6章) ファイナンスの人たちは、彼らのやり方を真似て、めったに起きない事象を無視してしまった。だから彼らは、稀な事象のせいで企業が倒産したりすることに気づかない。(中略)ファイナンスでもそうだけれど、重大な結果をもたらす事象は、めったに起きなくても無視してはいけないのである。(「外れ値」を取り除いたりするが、それをして良い場合と悪い場合とがある)

(9章) 生存バイアスは当初の母集団の大きさに左右されるのを思い出そう。(中略) 知る必要があるのは、当初その人が属していた母集団がどれだけの大きさだったかということだ。

(11章: デボラ・ベネット「確率とデタラメの世界」より引用) ある病気の検査をしたところ5%の割合で偽陽性が出た。人口の1000分の1がこの病気に罹る。検査は被験者を無作為に選んで行われ、病気に罹っている疑いがあるかどうかは無関係だった。さて、ある患者を検査したところ陽性だった。この患者が罹患している確率は何%か?

ほとんどの医師は95%と答えた。検査結果は95%の確率で正しいと考えて出した答えである。正しい答えはこうだ。被験者が罹患していて、かつ、検査で陽性が出る確率は--約2%だ。

以下、答えを(頻度にもとづいて)単純化して説明する。偽陰性はないものと仮定しよう。検査した被験者1000人のうち病気に罹っている人の数は1人だと予想できる。全体のうち残りの999人は健康だが、そのうち約50人は病気に罹っているという検査結果が出る(正確さは95%だから)。正しい答えは、無作為に選ばれて検査結果が陽性だった人が病気に罹っている確率であり、次の式で計算できる。

罹患している人 / 真の陽性の人と偽陽性の人の数

ここでの数字を使えば、51人に1人だ。

(11章) 価格変化の重要度は線形ではない。2%の変化の重要度は1%の変化の2倍ではない。むしろ4倍から10倍の感じだ。7%の変化なら1%の変化の数10億倍も重要だ!

最後に注釈と、膨大な文献リストがあったが、その注釈に、(少なくとも私には)著者のストレートな主張の一つが書かれていた: (うろ覚えだが) 大事なことは、確率の計算が正しくできることではなく、どのような分布・構造になっているかを知ることだ

2012-05-04

モモ, ミヒャエル・エンデ (著), 大島かおり (訳)

MOMO, Michael Ende
岩波書店
2012-05-03 読了

昔、家の本棚にこの本があったような気がするが、ついぞ読まないまま、こんな歳(どんな歳?)になってしまった。今回、たまたま本を手にとる機会があり、読むことができた。

「児童文学」ということになっているようだが、こんな歳(どんな歳?)の中年でも十分に楽しむことができた。扱われているテーマ「時間」も深淵だ。ストーリーもSFとも言えるしミステリとも言えるし、はたまた社会問題も入っているようなもので、中盤の逆境や後半のスピード感などによって、ついつい次のページをめくってしまった。

自分が、残りの人生の時間を意識せざるを得ない年齢になったからこそ、興味を惹かれたのかもしれない。

もちろん小学生高学年くらい(?)以降であれば楽しめるだろう。それぞれの読み方ができるのだろうと思う。自分は若い時に読んでいないので分からないが。

こんな本があるから読書は楽しい。

2012-05-02

ハゲタカ, 真山仁

ダイヤモンド社 (上), (下)
2012-05-02 読了

良い意味で予想を裏切られる内容だった。

タイトルから想像するのは、とにかく金にモノを言わせて会社を買収するようなイメージ。しかしながらビジネスなのだから当たり前だが、単に資金を投入するだけでは儲かるわけがなく、事業を復活させて収益を上げたり、企業価値を高める必要がある。また、買収の過程でも、必要な情報を事前に入手すること、それを交渉の場で活かすこと、ができなければ目的を達成できない仕事だということがよくわかった。

主たる話はフィクションだろうが、そこに、現実に発生した事件など(固有名詞は【分かりやすく】変えられているが)がその時系列でからんでくるので、リアリティを感じる。

2012-04-26

自動車事故と地震・津波・原発問題の違い?

最近、大変悲しい自動車事故が度々発生しています。これらに対する、目・耳につく報道は、運転していた人の個人に(むりやり)原因を求めることがほとんどのように思われます。

ところで、平成23年版警察白書によると、全国の平成22年の交通事故による死者数は4,863人、負傷者数は896,208人だそうです。幸いにも、これらの人数は減少傾向にあるようですが、しかしながら5000人近い方々が毎年亡くなられているという事実は、たとえば東日本大震災で亡くなられた方・行方不明の方の数を考えてみると、非常に重いものがあります。

原発の存廃に関しての議論も、さまざまな意見があり、大変重要なことだと思います。

これら自然災害や原発(事故)に対する方策は、個人個人で出来ることには限りがあり、当然ながら組織・団体(国、会社、地方自治体 etc.)での方策が議論の中心になっています。

しかし交通事故の場合、たしかに事例によって様々なケースがあるでしょうし、自動車事故の場合は当然ながら運転手の責任が第一だというのもそのとおりですが、組織的な対策の不備が問われることはまれな気がします。

すなわち、自動車事故を減らすためには
  1. 自動車をなくす
  2. 歩行者の通る道は自動車が通らないように規制する
  3. 歩行者のそばを通るときは一定以上のスピードが出ないような装置を組み込む
  4. そもそも自動車と歩行者の道を分ける
などという根本的な対策についても検討されて良いのではないかと思います。(もしかしたら、警察庁? 国土交通省? などでは議論されているのかも知れませんが)

津波対策・地震対策は人命だけでなく、財産、生活を守る上で必要です。また、原発事故で撒き散らされた放射性物質の除染もある程度は必要です。しかしながら、こと、交通事故や自動車ということになると、そのような視点が表立つことが無いのは、自動車が身近なせいだけでしょうか。

虚空の逆マトリクス, 森博嗣

2012-04-26 読了 (2回目?)
講談社文庫

なんとなく、気楽に読めるものを手に取ると、森博嗣になってしまう今日このごろ。
短編集を順番に読んできて、本作は4作目の短編集(のはず)。かなり粒ぞろいだと思う。

涙なくしては読めない(嘘)のが「話好きのタクシードライバ」。いちおうミステリ仕掛け(?)にはなっているが、作者自身が日常タクシーを使っていて相当不満を持っているらしいことがよく分かる。

「トロイの木馬」「探偵の孤影」は、読後にモヤモヤが残る(私だけか)。

「ゲームの国(リリおばさんの事件簿1)」は力作(というのか?)。よくこれだけのレパートリーを思いつくものだ。

今作では、S&Mシリーズの登場人物がでるのは1作のみ。やっぱり萌絵の家に集まる。

次は何を読もうか。

2012-04-16

工学部・水柿助教授の解脱, 森博嗣

2012-04-15 読了
幻冬舎文庫

本作はこのシリーズにしては比較的素直にストーリィが展開する。独特の考え方や生活などが垣間見れて面白い。

前作よりさらに、大学の話が出てこない。そのように比重が移っていったのだろう。

ホームページには、今後の小説出版予定が書かれている。Gシリーズは12作まで、Xシリーズは6作までらしい。この本の水柿君が言うように、出版社への義理で執筆を続けているのみだとすれば、いち読者としては寂しいが、生活のために稼がなくても良いのだろうから、仕方がない。

人の一生は有限の時間しかない。その時間をどう使うかはその人の自由だろう。

愛知万博とか、懐かしい。

2012-04-13

工学部・水柿助教授の逡巡, 森博嗣

2012-04-13 読了
幻冬舎文庫

水柿君シリーズ(Mシリーズというらしい:森博嗣の自伝的小説?)の第2弾。前回よりもぶっ飛ばしている感じ。文中では「これは小説だ」と主張しているが、エッセイに近いかもしれない。まあそんなカテゴライズはどうでも良い。いよいよ小説家になる経緯(いきさつ)の話。

前作では、大学での話も結構あったが、今作は小説家としての部分の話がメインなため、大学生活の描写は極端に少ない。

それにしても、作者が意図したことだろうが、話が縦横無尽に行ったり来たり明後日にいったりして読みにくい部分が多い。まあ無理して読むなということか、ストーリィを追うだけが読み方ではない、ということか、タイトル通り逡巡しているのか。それでも続きが気になり、次作もすでに買っているのだが。

2012-04-10

変動する日本列島, 藤田和夫

2012-04-10 読了 (図書館)
岩波新書

買いたいと思っていたが、出版社で品切れ(重版未定)のようなので、図書館で借りて読んだ。

近畿地方を中心とする現在の地形のでき方を、地質学・地形学から明らかにするドキュメンタリー(?)。すべて理解できたわけではないが、数十〜百万年という長い(地質学的には短い)年月の間でダイナミックに変化する地形を読み解く、非常に面白い著書。活断層や地震の話も出てくる。この本が出版されたのは1985年で、もちろん野島断層などピンポイントの話があるわけではないが、しかし近畿地方にも活断層があることや、地震の危険性についても書かれている。

途中からかなり複雑な話になるのであまり理解できていないし、書かれているような変動が、どのような仕組みで起こるのか、というところもよく分からないが、大変興味深い。

それにしても、重版してほしい。なんのための再販制度か分からない。そもそも電子書籍にしておけば、「版」などほぼ意味がなくなるし、在庫を持っていなくても販売できる。出版社にとっても良い話もあると思うが。といういつもの愚痴はこのへんで。

旧版の岩波新書全てが在庫切れなわけではないことに、とりあえず安堵するが。

(参考)
本書にも少し話が出てくるが、著者が参加したカラコルム・ヒンズークシの調査の様子がwebで見られるようになっていた。netで検索したら出てきた。素晴らしい。

2012-04-05

今夜はパラシュート博物館へ, 森博嗣

2012-04-04 読了 (2回目?)
講談社文庫

また森博嗣の短編集を読みなおした。これはVシリーズが5作目まで出たあとに出た短編集。S&Mシリーズのキャラクタが登場する話が2編、Vシリーズが1編。

どんどん弾けていて良い感じ。

2012-03-31

タカイ×タカイ, 森博嗣

2012-03-31 読了
講談社文庫

西之園萌絵がこのシリーズでも存在感を増してきた。たしかもう一つのシリーズ「Gシリーズ」にも登場していた気がする。S&Mシリーズの「幻惑の死と使途」「夏のレプリカ」であったような、同時進行をさらに織りまぜていくのかもしれない。

個々の謎やストーリーはどうでも良いとは言わないが、それよりも、シリーズ内外の流れ、人間関係などが非常に気になる。

2012-03-30

日本人は知らない「地震予知」の正体, ロバートゲラー

2012-03-29 読了
双葉社

この本の主張するところは、ただ一つ、
地震予知は実現不可能だから、そのための研究計画・体制はやめるべき
というものだ(と思う)。

しかし、「地震予知は実現不可能」と何度も書かれているが、その根拠はそれほどはっきりと示されているわけではない。それらしい箇所は第3章の【地震が起きるプロセスは「複雑系」だ】か。鉛筆が折れるのを予測するのは困難だとか、「サイコロの出目を決定論的に予測することは、どうやっても不可能だ」などの記載がある。

【地震が起きるプロセスは「複雑系」だ】というのはそうかもしれないが、それが証明されているわけではなさそうだ。また一言に「複雑系」といっても、いろいろな程度があると思う。

引用が面白い。論文やいろいろな機関のウェブページ、はては新聞や週刊誌の記事など。

紹介されているリンクを集めていこう。(追加予定)

2012-03-27

名もなき毒, 宮部みゆき

2012-03-26 読了
文春文庫

なんと「誰か Somebody」の続編。まさか続編が出るとは思いもしなかった。というのも、それほどキャラクタが印象に残る、という類ではないと思っていたから。本書でもたびたび出てくるが、野心のない男、というような設定だ。とはいえ、考えてみると、今多コンツェルン会長の娘婿、その会社の広報誌編集部、という特異な役どころは、普通でない。そのような設定だと、いろいろな事件に首を突っ込ませ易いのかもしれない。

まあしかし、続編だろうがなんだろうが、本書(他の宮部作品でも同じだが)の魅力が減じるものではない。

例によって、内容には触れずにおこう。

解説によると、この作品は、2005年末まで新聞で連載され、2006年8月に単行本として出版されたらしい。その後ノベルズ版が2009年5月に出版。私の購入した文庫は2011年12月出版だ。単行本が出てから5年以上が過ぎている。もうちょっと早く文庫を出してもらいたいものだ。出版元としては、より高額で売れる版を、少しでも長く売りたいだろうから、宮部のようなベストセラー作家の作品は急いで文庫化する必要はないのだろう。

しかし小説を読むフォーマットとして、文庫が一番適していると思う。比較的安価だし、椅子に座っても、寝転がっても読める。電車の中でも取り出しやすい。反対に、単行本など、ハードカバーだし、大きいし、重いし、まったく利点が思いつかない。

日本の出版社の電子書籍に対する超保守的態度からもわかるが、読者の便宜などまったく考慮されておらず、自分たちの商売の慣習を頑なに守っているだけという気がする。

日本のマスメディアと同じで、出版業界も日本語という障壁に守られているので、まだまだ滅びないだろうが、20~30年後にそのままの形で生き残っているとは到底思えない。

と、ほとんど本作とは関係のない愚痴となってしまった。

2012-03-24

地球儀のスライス, 森博嗣

2012-03-24 読了 (2回目?)
講談社文庫

おそらく10年ぶりくらいに読む。短編集第2号(?)。S&Mシリーズが完結したあとに出版された(はず)。
S&Mシリーズのキャラクターが出る話が2つ、後のシリーズに登場する小鳥遊練無や香具山紫子が登場する話、(書いていないけど)名古屋大学が舞台の「僕は秋子に借りがある」など、内容充実。Vシリーズはかなり弾けているなあ、と、改めて思う。ので、そのうち、再読したい。

2012-03-19

"間違いを伝えることでパニックになること"を恐れた, 下村健一インタビュー

「"間違いを伝えることでパニックになること"を恐れた」 内閣審議官・下村健一<インタビュー「3.11」第11回>

記事のタイトルはやや誤解を招きそうな気がするが、危機コミュニケーション(危機だけに限らないが)について、非常に示唆に富む話だと思う。

レタス・フライ, 森博嗣

2012-03-16? 読了 (2回目)
講談社文庫

短編集。

(2012-05-05追記)
すでにこの本のエントリを作っていた orz...

そもそもこのblogは、すでに自分が持っている本を重複して買うことがないようにするための記録として書いているだけなので、エントリの重複ぐらいはまあ放っておこう。

まどろみ消去, 森博嗣

2012-03-18 読了 (2回目?)
講談社文庫

最初の短篇集。
初期の雰囲気で、のちの作品から見ると、肩に力が入っているという感じ?

工学部・水柿助教授の日常, 森博嗣

2012-03-17 読了 (2回目)
幻冬舎文庫

どこまで実話で、どこまで創作かわからないが、これだけいろいろ書けるのはすごい。
筒井康隆が解説を書いている。

2012-03-04

中原の虹, 浅田次郎

講談社文庫 (1)-(4)
2012-03-04読了

実在の人物、張作霖の満州での活躍がメインストーリー。並行して清の終焉。
相変わらず読ませる。泣かせどころもある。

しかし最後は、まだまだ続きがありそうなところで終わっていて、続きが気になる。

2012-02-13

珍妃の井戸, 浅田次郎

2012-02-12 読了
講談社文庫

大作「蒼穹の昴」の続編(か)。
時代は「蒼穹の昴」の少し後。だが構成は推理小説のよう。
何を書いてもネタバレになりそうなのでこんなとこで。
読み出したら止まらない。次のはもう少し仕事が片付いてからのほうが吉(?)。

2012-02-06

ナニワ金融道, 青木雄二

2012-02-06 読了 (2回目)
講談社漫画文庫 (1-10巻)

通して読むと、初期のほうがエグイ話が多い気がするが、借金は怖いということを分からせてくれる本。かなりマニアックな話もあるが、借金返済を別のクレジットカードを使ってやるなど、よくありそうなパターンもでてくる。

どの話にも非常に特徴的なキャラクターがでてくるが、伏線をたいして使わない間にあっさりと別の話に移ってしまう、という、あるいみ太っ腹な展開もある。肉欲棒太郎など一部のキャラは再び陽の目を浴びるが、他にも再登場してその後を見てみたい人物がたくさんいる。

それにしても個性的。絵は手書き風味の超濃いコテコテ、話の内容は街金という、ある意味マイナーなところが舞台、そしてコテコテの大阪弁と下ネタ的な固有名詞。これも日本が生み出した漫画文化のひとつ。

何度書いても書き過ぎでないと思うが、借金は怖い。頭金の何倍もの金額のローンを組んでマンションを買う(しかも30年など超長期の支払い)など私には恐ろしすぎる。

2012-01-31

銀河不動産の超越, 森博嗣

2012-01-31 読了
講談社文庫

いつもの(どの?)森博嗣節満載の小説。
ときどき「クスッ」とにやけてしまうやりとりもはさんだ軽快な会話。ちょっと変わった登場人物。

今思ったが、たぶんいわゆるミステリではない。

2012-01-29

蒼穹の昴, 浅田次郎

2012-01-29 読了
講談社文庫 (1)-(4)

あまり馴染みのない中国の話、登場人物の多さ、などに尻込みをして、勝手に敷居が高いと思い込んでいた。

しかし、さすがは浅田次郎というべきか、小説家はすごい、というべきか、一旦読み始めたら途中でやめられなくなった。時間がない平日の朝でも、ついつい話の続きが気になり、ぎりぎりまで読んでしまうほどだった。私のような凡人が何を書いても仕方がないのだが、これだけの複雑な人間関係やストーリーを、全く引っかかりを感じさせることなく読ませてしまうとともに、それだけでなく、浅田節とでもいうべき人間ドラマもしっかりと含まれている。力量に感服する。

続きもあるようなので楽しみだ。