2012-08-17

真相ライブドアvs.フジ, 日本経済新聞社(編)

日本経済新聞社
2012-08-17 読了 (図書館)

この本は、2005年の株式会社ライブドア(当時)と株式会社フジテレビジョンによる、株式会社ニッポン放送の株式争奪戦およびそれによる株式会社フジテレビジョンの経営権を狙った一連の出来事について書かれている。それが一応の結論をみた直後に出版されているようだ(2005年6月22日発行)。なので、もっと劇的な、その後の強制捜査および堀江氏らの逮捕、刑事・民事訴訟については触れられていない。

副題が「日本を揺るがした70日」とあり、その間の両者および関係者の動きなどは分かりやすくまとまっている。また株式会社ニッポン放送と株式会社フジテレビジョンの資本が逆転関係になった経緯についても触れられており、納得できた。

しかし、天下の日経新聞が書いた本にしては、様々な戦術や経済的概念などについての記述が物足りない。まるで一般紙を読んでいるようだ。しかも、株式分割で株価が上昇したことの説明は、重要な点が明らかに不足していると思われる。Wikipediaには

この現象の原因の一つには、分割権利落日(2003年12月26日)には1株単価が100分の1になるが、当時、新株は制度上の理由からおよそ2ヵ月後(2004年2月2日)にならないと受渡が行われなかったので、その間、流通株の時価総額が分割前の100分の1となり需給が逼迫したとされている。

とあるし、橘玲「臆病者のための株入門」でも、当時の制度上の欠陥を主因に挙げ、株式分割で株価が上昇したメカニズムを分かりやすく解説していた。それに対してこの本では

株式分割をやっても企業の価値自身に変化はないので、本来は分割で時価総額が大きく変わることはない。ところが実際には分割すると、新株が流通するまでの一時期、株式市場に出回る株券が相対的に少なくなり、受給が逼迫、わずかな買いで株価が上昇しやすくなることがある。(p. 67)

と、制度上の問題点については触れられていない。しかもこの少し後の部分には

ちなみに、大幅な株式分割に対しては、東京証券取引所などが上場企業に実行しないよう要請。今では事実上、実施できなくなった。大幅分割は違法行為ではないが、それだけ「危うさ」のつきまとった手法だったのだ。

と書かれている。もちろん株式分割の事務処理に多少の手間はかかるだろうが、しかし上の引用部分にも書かれているとおり、株式分割は本来企業価値に関係ないし、小口にすることで売買が活発になり、証券取引所にとっても悪くない話のはずだ。邪推するに、取引が小口化されすぎると、取引所で捌かなくてはならない取引数が莫大になり、(貧弱な)取引システムでは追いつかなくなるので、あまり分割しないでください、というお願いベースの話だろうと思う。それを「危うさのつきまとった手法」と言ってしまうのは、本当に「経済」新聞かと驚く。

また、この本には関係ない部分ではあるが、その後の証券取引法違反容疑での捜査・逮捕・裁判などは、同様な証券取引法違反(粉飾決算)をやったカネボウ株式会社や日興コーディアルグループにくらべてはるかに重い社会的制裁を受けた。しかもライブドアは利益を水増ししたとされていて、そのために余分な納税も行なっているらしい。「伝統ある」日本企業はそうとうなことをやっても、会社が潰れるくらいにならないと立件されないし、上場廃止にもならなかったのに対し、ライブドアのような「ぽっと出の」会社は、強制捜査をやろうが、それで株価が下がろうが、上場廃止にしようが関係ない、のだろう。そのような「出る杭は打たれる」ような社会にしておきながら、一方で、日本には起業が少ない、とか言っているのは一体どういうつもりなのだろうか。ライブドアがどのような事業をしていたか詳しく知っていたわけではないし、それを擁護するつもりはないが、この事件をきっかけにしてもたらされた日本の新興市場の冷え込みや社会の閉塞感などが回復することはあるのだろうか。

この本が対象にしている期間では、この対決は日本を揺るがしたのではなく、既得権益に守られたテレビや新聞などマスメディアの関係者が揺さぶられたのだろう。それでもニッポン放送やフジテレビジョンは、上場しているためにこのようなターゲットになり得た。株式会社日本経済新聞社、株式会社読売新聞グループ本社、株式会社朝日新聞社、株式会社毎日新聞社はすべて非上場。おかげでこのようなターゲットになる心配はないし、上場に必要な情報公開はしなくていい。もちろんわざわざ上場して市場から資金を集めてやるほどの事業がないのだろうし、企業価値が上がらなくても良いのだろう。

ところでこの本を読んで思い出したことが一つ。この騒動の最中に堀江氏がよく言っていたセリフが
想定の範囲内です。
であった。

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