2010-11-17

亜玖夢博士のマインドサイエンス入門, 橘玲

文芸春秋
2010-11-16 読了

前作は経済学の理論などの話だったが、同じ登場人物が出るとはいえ、続編と思っていると良い意味で期待を裏切られた。とんでもないスケールのSF小説だが、原理的には実現可能な技術とも思え、荒唐無稽と切って捨てることができないところが恐ろしい。

それにしてもこの著者の、難しい概念を分かりやすく説明するやりかたには感心する。この作品では例えば、数論理学の基本「ある論理式とその対偶の真偽は等しい」という本質は同じ問題を出されたときに、抽象的な問題だと難しく感じるが、「居酒屋で酒を飲む未成年者」などの「裏切り者」をみつけるような問題では、すぐに正解にたどり着く、というくだりが印象に残る。(「第2講 進化心理学」)

そのほかにも興味深い研究の話がたくさん紹介されている。

2010-11-03

プレートテクトニクスの拒絶と受容, 泊次郎

東京大学出版会
2010-11-01 読了

プレートテクトニクスはトマスクーンの言う「パラダイム」の例だと言われることがある。その可否はともかくとしても、地球科学の上での大きなパラダイムシフトがどのように進行したか、膨大な資料をもとに、具体的なhistoryを知ることができる。

プレートテクトニクス「革命」を概観するにも、過去の地球科学分野でどのような営みがあったかを知るにも、よいまとめ。

「あとがき」の下記部分がよい。
「科学とはただ1つの真理を求める活動である」と理解している人も少なくないようですが,自然を理解するにはさまざまな解釈がありえます.その解釈には,そのときどきの社会・政治情勢や科学者集団内部の権力・利害関係などさまざまな要素がからんできます.科学とは自然を忠実に模写したものではありえず,科学者集団による社会的な営みとしての側面を持つものなのです.「日本でのプレートテクトニクスの拒絶と受容」というフィルターを通して見えてきたのも,そうした現実の人間味あふれる科学でした.現在進行中の科学もこうした社会的なさまざまな要素がからみ合って営まれていることを,理解して欲しいと思うのです.