2021-06-20

海馬, 池谷裕二, 糸井重里


新潮文庫
2021-06-20 読了

キーワードは「可塑性」。
脳の神経細胞は年を取るごとにどんどん減っていくと言われるが、だからといって能力が衰えるわけではなく、「あるものとあるものとのあいだにつながりを感じる能力」は30歳を超えた時から飛躍的に伸びる、という話は生きる気力がわくし、まだまだ勉強しようという気にもなるし、とにかく非常に素晴らしい。

脳の性質を知ることで、ちょっとした生活・仕事のハウツー的な知識も得られる。以下、ほぼ引用。

  • 人間が整理できる記憶は7つくらい
  • タクシードライバーの海馬の大きさは、その勤務月数と正の相関がある 新しい刺激にさらされることが重要
  • 脳に逆らうことがクリエイティブ: 創造的なことをしたいと思っている人は、画一的な見方をしたがる脳に対して、挑戦をしていかなければなりません
  • やりはじめないと、やる気は出ない: やる気を生み出す場所は脳の側坐核にあり、そこの神経細胞が活動すればやる気が出るという仕組みです。刺激が与えられると活動する場所なので、「やる気がない場合でも、やりはじめるしかない」のです。
  • 寝ることで記憶が整理される
  • 生命の危機が脳をはたらかせる: 扁桃体や海馬をいちばん活躍させる状況は、生命の危機状況です。ちょっと部屋を寒くするとか、お腹をちょっと空かせるという状態は、脳を余計に動かします。
  • センスは学べる: 人間の認識は感性も含めて記憶の組み合わせ。創造性も記憶力からくる、と言える。新しい認識を受け入れてネットワークを密にしていくことが、クリエイティブな仕事というものに近づいていくヒントになる。ひとつ認識のパターンが増えると、組み合わせの増え方は、統計学的には莫大な数になる。
  • 問題はひとつづつ解こう: 脳は達成感を快楽として蓄える。達成感を生むためには、小さい目標を設定して、ひとつずつ解決していくといいのでは。

  • 心は脳が活動している状態を指す
  • 人間の本質は「変化」
  • 脳がコンピュータと決定的に異なる点は、外界に反応しながら変容する自発性にある

文庫版の追加対談にもドキッとすることが書かれていた。

 糸井: ほんとうにすべての可能性を考えながら生きていたら、きっと発狂しちゃいますよね。だから「わかっている範囲」を中心に暮らしているわけですけど、世界が「わかっている範囲」でしかないと思うのは、やはり傲慢だと思うんです。 

池谷: それはまさに科学者が忘れてはいけないことのひとつです。(中略)どんなものでもそうなのですが、システムは階層的になっていて、その階層ごとに真実があって、しかもそれが相互に影響を与えているんです...