2023-06-18

3.11大津波の対策を邪魔した男たち; 島崎邦彦

青志社
2023-06-18 読了

政府の地震調査委員会や原子力規制委員会などでも要職を務めた著者が、地震調査委員会長期評価部会長として関わった、「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価」などの話と、そこで挙げられた津波地震を都合の悪いものとして考慮したくなかったと思われる、東電など原子力業界の(著者から見た)動きが、描かれている。

通常は表に出ない、役人らの実名も挙げられていて興味深い。やや残念なのは、「原子力ムラ」という言葉で関連業界・行政を表現していること。まあ著者の側はそちらではないので、そちらの内側の記述が相対的に少ないのはやむを得ない。

2023-01-22

デセプション・ポイント; Dan Brown (著),  越前敏弥 (訳)

角川文庫 2023-01-22 読了(図書館)

ダン・ブラウンが2001年に発表した小説。アメリカ・ホワイトハウスや NASA, NRO (国家偵察局) など、またまた実在の組織が舞台・題材になっている。

ストーリーは、ネタバレになるので詳しくは書かないが、かなり強引な設定で進む印象。そして、ほとんどお約束の黒幕。それでも話に引き込まれ、続きが気になり、なかなかやめられない。この作者のほかの作品と同様、スリルというか、危機的な状況が何度も訪れ、私のような心臓の弱い(?)読者には刺激が強い。

キーワードとしては、隕石、地球観測衛星、化石、沈み込み、マグマ、などなど、個人的になじみのある分野が扱われている。隕石や化石に詳しいわけではないが、設定としてはまあ悪くないかな、という感じ。一方、軍事技術、航空機、推進機構などは、現在(といってもこの小説が書かれたのは20年以上前だが)存在しているとは思いにくいものが結構出てくる。本の最初に「この小説で描かれる科学技術はすべて事実に基づいている」とあるが、まあそれをどこまで真に受けてよいのかはわからない。

2023-01-03

傑作! 巨匠たちが描いた小説・明智光秀; 吉川英治, 池波正太郎, 山田風太郎, 柴田錬三郎, 井上靖, 海音寺潮五郎

宝島社文庫
2023-01-03 読了 (図書館)

6人の作家による、明智光秀が出てくる短編小説集。しかしその作風はそれぞれ異なり、海音寺潮五郎の「明智光秀」は小説というより、作者自身が「ぼく」として登場し、自分の考えを述べる文章。吉川英治「茶漬三略」は明智光秀というより豊臣秀吉が主役。池波正太郎「鬼火」は本能寺の変に巻き込まれた忍者が主役。山田風太郎「忍者明智光秀」はそのタイトルの通り、設定がかなり特異。柴田錬三郎「明智光秀」も本能寺の変とそれに関わるというか、裏で筋書きを描いた忍者の話。井上靖「幽鬼」は、光秀が攻めた波多野氏の悲劇と本能寺の変。

一口に歴史小説と言っても、もっともらしい史実を下敷きにして話を作るだけでなく、かなり荒唐無稽な設定に仕立て上げるものもある幅広い・自由なものであるということが分かった。

2022-12-28

信長街道, 安部龍太郎

新潮文庫
2022-12-28 読了 (図書館)

以前読んだ、安部龍太郎「信長はなぜ葬られたのか」と同様、小説ではなく、著者による、信長の歴史の謎に対する探求の記録。実際に歴史の舞台になった地を訪れ、考えを深めていく。

個人的に新しい観点と思ったのが、信長とイエズス会との関係、ひいては西洋文明との対峙という視点。ルイス・フロイスらが有名だが、著者の言を借りれば、「宣教師は正義の天使でもサンタクロースでもない」。著者の推理によれば、信長は宣教師たち(もしくは同行の技術者)から西洋の技術(例えば造船)を得た見返りに、明(中国)へ攻め入ることを約束させられていたのではないか、という。それがそのままではないにせよ、宣教師たちはなにか要求があってわざわざ信長のもとを訪れたのだろうから、単に布教の自由を求めたというだけでなく、なんらか見返りを求められていたというのはありそうに思える。

そのような背景を考えつつ、本能寺の変など、さまざまな出来事を見直せば、かなり見え方が変わってくる。これは日本史だけ勉強していてもだめだろう。

2022-12-10

ダ・ヴィンチ・コード ヴィジュアル愛蔵版, Dan Brown (著),  越前敏弥 (訳)

角川書店
2022-12-10 読了 (図書館)

「ダ・ヴィンチ・コード」の小説だが、作中に登場する絵画や場所、地図などが掲載されているので、私のようにインターネットでどんな場所・絵かすぐに調べたくなる人には非常に良い企画。

小説は、前回読んだのが15年(以上)前のはずで、ほとんど覚えていなかった。おかげで新鮮な気持ちで読めてよかった。 記憶の中では、もっといろいろな謎が出てきたようにも思ったが、謎解きと言えるのは、作中の重要人物のジャック・ソニエールが仕掛けたものが大半で、ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」の解釈程度。「モナリザ」も出てくるが、ラングドン教授が講義で説明する程度。本作を貫く主要なテーマではある。

「天使と悪魔」の展開とやや似た部分もある。気味の悪い殺人者の存在がずっとちらついていたり、黒幕、作中での時間の短さ(今回は2~3日?)などなど。スピード感が感じられ、これはこれで非常に効果的。ただ展開がかなり強引に感じた。

現地に行ってみたいものだ。

2022-11-19

ANGELS & DEMONS (天使と悪魔), Dan Brown, 越前敏弥 (訳)

角川文庫
2022-11-19 読了 (図書館)

「ダビンチ・コード」で有名な作者による「ラングドン」シリーズの第一作らしい。といっても私は「ダビンチ・コード」しか読んだことが無いので良く分からない。

この作品はイタリア・ローマが主な舞台で、名所がたくさん出てくるので、なんか親しみがある。ローマには一度だけ行ったことがあり、訪問したことのある場所もいくつか出てくるので、なにか親しみがわく。また、訪問しなかったところが出てくると、ちょっと残念な気分になる。google map の street view などで小説の舞台になっている場所をついつい見て確認したくなる。

肝心の小説の中身は、ミステリなので、例によって詳しく触れるのはやめておくが、「ダビンチ・コード」ほどは謎解き要素が少なく、前半部などむしろホラー的な部分もある(とはいえホラー小説と呼ばれるものをほとんど読んだことが無いので、そうは言わないのかもしれないが)。話の展開がスピーディで、はじめから映画化を狙っていたようにも思える。

「ダビンチ・コード」を読んだのはもう10年以上前なので、また機会があったら読み直してみたい。それにしても、ラングドン教授は不死身だなあ。

2022-11-06

「役に立たない」科学が役に立つ, Abraham Flexner, Robbert Dijkgraaf, 初田哲男(監訳), 野中香方子(訳), 西村美佐子(訳)

The Usefulness of Useless Knowledge
東京大学出版
2022-11-07 読了 (図書館)

プリンストン高等研究所の初代所長 (Abraham Flexner) と、前所長かつオランダの現教育・文化・科学大臣 (Robbert Dijkgraaf) が著している。もともと Abraham Flexner が書いたエッセイに Robbert Dijkgraaf が解説のようなエッセイを追加で書いたようだ。

内容は、なんというか、タイトルの通り。日本で、歴代のノーベル賞受賞者が、機会あるごとに基礎科学研究の重要性を述べているが、日本の高等教育・科学技術行政は「選択と集中」というスローガンに代表されるように、役に立つ・応用に直結する研究が求められ、基礎研究というか研究の多様性を守る・育てるというような政策は顧みられていないように思える。そのようなことは日本だけかと思ったが、世界を代表する米国の研究所の所長経験者も、それぞれの時代の風潮を感じてこのような文章を書いているほどだというのには、やや驚いた。

両方の文章にはそれぞれ著名な科学者・発明家などが多数挙げられ、多くの場合、役に立つことを目指して研究していたわけではなく、それぞれの精神・好奇心の導くままに探求した成果だということ、また将来どのような応用につながるかを見通すことは困難だということ、が繰り返し述べられている。もっとも、今わからなくても将来何かに役立つから基礎研究が重要なのだ、と言っているわけではなく、研究というものは精神の自由な思考・試みのもとでないと真に新しいことはできないからだ、というようなことが書かれていた(かなりうろ覚えなので文言は不正確)。