2011-09-23

津波と原発, 佐野眞一

講談社
2011-09-22 読了

本書は大きく分けて (1) 津波; (2) 原発; の2部からなっている。しかし (1) は全体から見ると分量も少なく、わざわざ現地に出かけて行ってオカマさんの消息を訪ねたりと場当たり感が強い。津波で有名な山下文男さんの取材は面白いが。山下氏が日本共産党の元文化部長だったというのは初めて知った。

この本の眼目は2部の原発に関する部分だろう。特に日本に原子力発電所が根付く過程を、国や地元の政治家・実業家を軸に解きほぐしている部分は面白かった。
  • 元読売新聞社主の正力松太郎がメディアも使って原子力導入を推進
  • 福島第一原発は、堤康次郎が買い上げて塩田にしていた元陸軍飛行場跡地に建設

これを読むと、原子力政策は国と電力会社が一体で推進されていて、東京電力などの電力会社は民間企業のはずだが、容易には潰されないのも、さもありなんという感じだ。

しかし、原発労働を「誇り無き」「後ろめたい労働」など感覚的にネガティブにしか描かず、技術的な側面をまったく無視した記述はどうかと思う。これが世間一般的な認識なのだろうが、これでは森博嗣がいうような科学的思考・定量的思考が普通に根付くのは夢のまた夢という気がする。

また、あとがきなどで、今回の津波を「三陸津波」と言っているが、津波で被災したのは三陸地方だけでなく、この本で大々的に取り上げている福島原発がある福島県、仙台平野や茨城、千葉などの東日本の太平洋側の広い地域だ。意味がわからない。

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