阪急コミュニケーションズ
(原題) Numbers Rule Your World -The Hidden Influence of Probability and Statistics on Everything You Do-
統計学は、直観的でないことも多く、それに従うのは難しいが、しかし合理的に行動しようとすれば、避けては通れない。この本では、確率・統計が社会生活に関係した 10 のエピソードを紹介し、「統計的思考」を使ってよりよい判断を下すことを勧めている。
それぞれ非常に面白い話題で、示唆に富む。日本語版のタイトルは、やりすぎだろうが。統計を毛嫌いするのは不毛なだけでなく、合理的な判断をする上では害が多い。
- Disney Land の行列と "Fast Pass"
- 高速道路の渋滞を減らすために、ランプで車の入る数を制限する "ramp meter"
- O157の感染拡大の原因を探ること・ほうれん草
- クレジットカードの審査のためのクレジットスコア
- 試験の公平性(属性グループによる差を見つけること)問題ごとに、人種・性別などで正答率に偏りがあるかどうかを見つけることは、それぞれグループ全体を母数とすると良くない
- 保険、とくにフロリダ州のハリケーン保険: リスク分散と集中
- ドーピング検査: 偽の陽性、偽の陰性の、影響の非対称性(この本では「間違った陽性」「間違った陰性」と呼んでいる)
- テロ対策
- 飛行機事故にあう確率
- 宝くじ業界の不正
ランプメーターというのがあることを、初めて知った。ただ、この話とディズニーランドの話とを合わせて考えると、人間の感覚としては、「自分が待たされる」というのに苦痛を感じるので、全体的・平均的には待ち時間が減っている、とか言われても、なかなか納得できない。
ドーピング検査の話は、現在の「新型コロナウイルス」検査にも大いに関係する。世の中では、検査で「陰性」だったら、ああよかった、となるだろうが、どんな検査も 100% の精度はありえず、「検査では『陰性』だったけどウイルスに感染している人」(見逃し)「検査では『陽性』だったけどウイルスには感染していない人」(空振り)も、ある割合存在する。
ドーピング検査では、「陽性」となったら、記録がはく奪されたり、今後競技に出られなくなったりするなど、社会的な影響・制裁がかなり大きい。本当にドーピングしている人も「検査のミスだ」と主張するだろう。一方、検査で「陰性」となったら、本当はドーピングをしていても、「潔白が証明された」「よかった」というだけで、「検査のミスだ」とは言わないだろう。このように、影響に明らかな非対称性があるため、検査では例えば、ある指標の数値に基準値を設けそれを超えれば「陽性」と判断するが、ドーピング検査の場合、偽陽性を極力出さないように、その基準値をかなり高めに設定するらしい。そうすると、偽陽性(空振り)は減るが、偽陰性(見逃し)は増えてしまうことになる。
新型コロナウイルスのPCR検査での陽性者の人数が連日報道されているが、以上のようなことを踏まえると、「陽性」となっても、本当は感染していない人がある程度は含まれているだろうということだ。逆に「陰性」となっても、本当は感染している人も含まれているはずということ。ダイアモンド・プリンセス号の乗員・乗客で、下船時の検査では「陰性」だったが、下船後の検査で「陽性」になったというのは、おそらくどちらかの検査で「偽」の結果がでていたためだろう。
ソフトバンクの孫さんが、検査キットを100万個配る、と提案していたが、そうすると、間違えて「陽性」が出てしまう人もかなり大量に出てしまい、(感染していないのであれば病院に行く必要がないのに)そのひとを受け入れられる態勢がなく病院がパンクする、というのも問題の一つなのだろう。
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