ダイヤモンド社 (上) (下)
2011-03-21 読了
「まえがき」からドキッとさせられることのオンパレードだ。だが読む前に想像していた、堅苦しい経済学の本とは全く異なり、読みにくいほどに冗談混じりのくだけた文体の、しかし非常に新鮮な、刺激的な自然観とでも言える話が展開される。
取り上げられる内容は、数学、経済学、物理学などにとどまらず、人間の認識論にまで及ぶ。つまり、人間は、頭の中で一旦、「理想」を作ってしまうと、自然はそうではないのに、理想に合わせて自然を見る目を歪めてしまう、ということだ。これは確かに思い当たる節がある。
「無知の知」だけでなく「不可知の知」
徹底的にガウス分布や「プラトン性」(こうあるべき、というものの見かた)というものを攻撃する。たしかにガウス分布は外れ値を無視してしまいがちだ。また、多くの場合、「平均」に意味はないが、拘ってしまう。(平均年収など)
それに関連して、特に金融・投資の分野では、ガウス分布(ノイズが打ち消しあう)に基礎をおいた「モダン・ポートフォリオ理論」を発展させたマーコヴィッツとシャープ、さらに彼らにノーベル賞を受賞した選考委員会をもこき下ろしている。これまで何度も「100年に一度」の異変が起こっているのに、そのような外れ値を扱うことのできないガウス分布に基づいた理論に、未だに機関投資家が頼っていることに吠えている。ただ、使っている方は、これくらいしか頼れるものがないのだろうが、著者は、そんなものでリスク管理ができていると考えるから、本当のリスクに備えられなくなるのだと主張する。
また、多くの金融機関が多様でなくなり、同様なツールで同じようなリスク管理をし、相互に強く依存するので、倒れる時も被害が甚大になる、というようなことを述べている。原著が出版されたのは2007年4月だそうで、サブプライムショックやリーマンショックよりも前にそのようなことを警告しているのは確かにすごいかもしれない。しかし著者自身がいうように、いつそれが訪れるかは予測することができない。
あと、投資に興味がある人にとって興味深いのが (下) P185 のグラフだ。ここには過去50年の、S&P500指数の変化と、その中で動きの大きかった(たった)10日を取り除いたもののグラフとを比べている。そして、その10日間を取り除くと、過去50年間のリターンは約半分になってしまうという。
マンデルブロを礼讃し、ガウス分布で表すことができるものは本当にランダムではなく、フラクタル的ランダムこそ真に気にする必要のあるランダムだと言っている。
著者は、ものごとを要約することにも注意が必要という感じだったが、一言で言うと、「先のことは分からない」ということと私的には解釈した。
とても稀な事象の確率は計算できない。でも、そういう事象が起こったときに私たちに及ぶ影響なら、かなり簡単に見極められる。
文庫で出てくれないかな。
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