2025-01-04

プレミアリーグサッカー戦術進化論, Michael Cox (著), 田邊雅之 (訳, 著)

二見書房
2025-01-04 読了

The Mixer: The Story of Premier League Tactics, from Route One to False Nines

オリジナルの英語版は2017年に出版されているが、そちらは全25章で 2016/17 シーズンまでの話をカバーしているようだが、この日本語版では第26章で 2017/18 の Manchester City が取り上げられているほか、第27章と補章を田邊さんが担当し、第27章では 2018/19 シーズンとイングランド代表の活躍までカバーし、補章ではプレミアリーグ(というかイングランド)に挑戦した日本人選手について触れられている。もっとも、この本が出版されたのが 2019 なので、当然そこまでの話題。

読んだ印象としては、邦題の「戦術進化論」というのはやや大げさな感じがする。原題にあるように「Story of Premier League Tactics」というのが良い気がした。戦術に注目してプレミアリーグの 25 年の歴史をたどっていく、というような感じ。

それにしても、サッカーの世界は、プレミアリーグだけに限らず、ほかの主なリーグはどこでも、変化が速いと感じる。1シーズン中に何度も監督を交代させるチームも珍しくない。その大きな理由の一つはおそらく、成績が悪いと下位のリーグに降格してしまう(そうするとクラブの財政も厳しくなる)ということがあるようにおもう。そう思うと、Sir Alex Ferguson や Arsène Wenger みたいに 20 年以上も同じチームを指揮し続けるというのは、奇跡のように思われる。

2024-10-15

塞王の楯, 今村翔吾

集英社文庫
2024-10-15 読了

主に大津城を舞台に、石垣のプロ集団の穴太衆と、同じく技能集団である国友衆(鉄砲)との戦いを主軸にした物語。特に穴太衆については、石を積むというところに注目しがちだが、石場で石を切り出し、それを必要な場所まで運搬することも、劣らず重要ということと、技術の話なので、ある程度定量的な記述があるのが、少なくとも私の読んだことがある歴史小説にはほとんど見られないものだったので、新鮮に、また、好ましく感じた。

下巻で戦の場面になると、なんというか、やや人間離れしたような感じになり、宮部みゆきでいうところの超能力者とか、歴史小説では忍者物のような感じになり、やや現実離れした印象を受けた。

それにしても一気に読まされてしまった。舞台となったところ(大津城はほとんど残っていないようだが)など訪れてみたい。

2023-06-18

3.11大津波の対策を邪魔した男たち; 島崎邦彦

青志社
2023-06-18 読了

政府の地震調査委員会や原子力規制委員会などでも要職を務めた著者が、地震調査委員会長期評価部会長として関わった、「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価」などの話と、そこで挙げられた津波地震を都合の悪いものとして考慮したくなかったと思われる、東電など原子力業界の(著者から見た)動きが、描かれている。

通常は表に出ない、役人らの実名も挙げられていて興味深い。やや残念なのは、「原子力ムラ」という言葉で関連業界・行政を表現していること。まあ著者の側はそちらではないので、そちらの内側の記述が相対的に少ないのはやむを得ない。

2023-01-22

デセプション・ポイント; Dan Brown (著),  越前敏弥 (訳)

角川文庫 2023-01-22 読了(図書館)

ダン・ブラウンが2001年に発表した小説。アメリカ・ホワイトハウスや NASA, NRO (国家偵察局) など、またまた実在の組織が舞台・題材になっている。

ストーリーは、ネタバレになるので詳しくは書かないが、かなり強引な設定で進む印象。そして、ほとんどお約束の黒幕。それでも話に引き込まれ、続きが気になり、なかなかやめられない。この作者のほかの作品と同様、スリルというか、危機的な状況が何度も訪れ、私のような心臓の弱い(?)読者には刺激が強い。

キーワードとしては、隕石、地球観測衛星、化石、沈み込み、マグマ、などなど、個人的になじみのある分野が扱われている。隕石や化石に詳しいわけではないが、設定としてはまあ悪くないかな、という感じ。一方、軍事技術、航空機、推進機構などは、現在(といってもこの小説が書かれたのは20年以上前だが)存在しているとは思いにくいものが結構出てくる。本の最初に「この小説で描かれる科学技術はすべて事実に基づいている」とあるが、まあそれをどこまで真に受けてよいのかはわからない。

2023-01-03

傑作! 巨匠たちが描いた小説・明智光秀; 吉川英治, 池波正太郎, 山田風太郎, 柴田錬三郎, 井上靖, 海音寺潮五郎

宝島社文庫
2023-01-03 読了 (図書館)

6人の作家による、明智光秀が出てくる短編小説集。しかしその作風はそれぞれ異なり、海音寺潮五郎の「明智光秀」は小説というより、作者自身が「ぼく」として登場し、自分の考えを述べる文章。吉川英治「茶漬三略」は明智光秀というより豊臣秀吉が主役。池波正太郎「鬼火」は本能寺の変に巻き込まれた忍者が主役。山田風太郎「忍者明智光秀」はそのタイトルの通り、設定がかなり特異。柴田錬三郎「明智光秀」も本能寺の変とそれに関わるというか、裏で筋書きを描いた忍者の話。井上靖「幽鬼」は、光秀が攻めた波多野氏の悲劇と本能寺の変。

一口に歴史小説と言っても、もっともらしい史実を下敷きにして話を作るだけでなく、かなり荒唐無稽な設定に仕立て上げるものもある幅広い・自由なものであるということが分かった。

2022-12-28

信長街道, 安部龍太郎

新潮文庫
2022-12-28 読了 (図書館)

以前読んだ、安部龍太郎「信長はなぜ葬られたのか」と同様、小説ではなく、著者による、信長の歴史の謎に対する探求の記録。実際に歴史の舞台になった地を訪れ、考えを深めていく。

個人的に新しい観点と思ったのが、信長とイエズス会との関係、ひいては西洋文明との対峙という視点。ルイス・フロイスらが有名だが、著者の言を借りれば、「宣教師は正義の天使でもサンタクロースでもない」。著者の推理によれば、信長は宣教師たち(もしくは同行の技術者)から西洋の技術(例えば造船)を得た見返りに、明(中国)へ攻め入ることを約束させられていたのではないか、という。それがそのままではないにせよ、宣教師たちはなにか要求があってわざわざ信長のもとを訪れたのだろうから、単に布教の自由を求めたというだけでなく、なんらか見返りを求められていたというのはありそうに思える。

そのような背景を考えつつ、本能寺の変など、さまざまな出来事を見直せば、かなり見え方が変わってくる。これは日本史だけ勉強していてもだめだろう。

2022-12-10

ダ・ヴィンチ・コード ヴィジュアル愛蔵版, Dan Brown (著),  越前敏弥 (訳)

角川書店
2022-12-10 読了 (図書館)

「ダ・ヴィンチ・コード」の小説だが、作中に登場する絵画や場所、地図などが掲載されているので、私のようにインターネットでどんな場所・絵かすぐに調べたくなる人には非常に良い企画。

小説は、前回読んだのが15年(以上)前のはずで、ほとんど覚えていなかった。おかげで新鮮な気持ちで読めてよかった。 記憶の中では、もっといろいろな謎が出てきたようにも思ったが、謎解きと言えるのは、作中の重要人物のジャック・ソニエールが仕掛けたものが大半で、ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」の解釈程度。「モナリザ」も出てくるが、ラングドン教授が講義で説明する程度。本作を貫く主要なテーマではある。

「天使と悪魔」の展開とやや似た部分もある。気味の悪い殺人者の存在がずっとちらついていたり、黒幕、作中での時間の短さ(今回は2~3日?)などなど。スピード感が感じられ、これはこれで非常に効果的。ただ展開がかなり強引に感じた。

現地に行ってみたいものだ。