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2021-10-03

ダブルマリッジ, 橘玲

文藝春秋
2021-10-03 読了(図書館)

この作家の小説は、「金融小説」とでもいうのかわからないが、オフショアやプライベートバンク、というキーワードで代表されるような、裏技的な節税手法や資産の海外移動などが題材になっていたが、この本は戸籍(国籍)がテーマ。

帯叩きには「知らぬ間に、妻とは別の女が戸籍に入っていた!」とあり、それがある意味、合法的になされるということで、「裏技的」ではあるが、それはまあスパイスというか前振りというか。それだけで引っ張るわけでなく、その種明かしは割と早い段階でなされる。

出版社のサイトには「ジャンル:エンタメ・ミステリ」とあったが、ミステリなのかな。ストーリーの先が気になる、という意味では立派なミステリかもしれない。読み始めたら一気に読み終えてしまった。

フィリピンが(も)舞台。

「相続時精算課税(の特例)」とか、ぽろっと税に関する豆知識が出てくる。小説を読んだだけだと、親が自分の子に2500万円まで非課税で贈与できるというように書かれていた気がするが、あとでネットで調べてみると、どうやら贈与の時点では非課税だが、その親が亡くなったとき相続税の計算対象には含まれるらしい。私の理解だと、不正確かもしれないが、生前にまとまった金額の相続をしておく、という意味合いのようだ。相続税が逃れられるわけではない。

2021-03-13

2045年問題 コンピュータが人類を超える日, 松田卓也

 2021-03-13 読了(図書館)

廣済堂新書


Ray Kurzweil などによって言われている技術的特異点の話。

SF映画などで描かれてきた知能を持ったコンピュータが実現したあかつきには「特異点」となり、それより未来は予測不能という予測を、著者自身の長年のコンピュータとのかかわりあいなどの話も織り交ぜ、紹介していく。

確かに、コンピュータの進歩は、ムーアの法則で知られるように、その性能を指数関数的に向上させてきた。また、「AI」「人工知能」という言葉を見ない日はないくらい、技術開発がどんどん進んでいるようだ。ただ素人目には、コンピュータが高性能になっても計算速度が速くなってきたということで、その本質は変化していないように思う。いまの多くの「AI」も、知る限りでは機械学習というべきもので、そこに独自の意識が出現するというものとは違うように感じる(知らないだけかもしれないが)。

余談だが、AIと聞いて思い出すのは、ひと昔まえ(ふた昔?)、ATOK (ジャストシステムのかな漢字変換ソフト)が、使用者の入力内容を学習し、変換候補を入れ替えて提示してくれる機能を「AI 変換」とか呼んでいた気がする。

そうはいっても、コンピュータに意識を出現させる、ということをまじめに研究している人たちは必ずいるだろうし、たとえ機械学習と呼ぶべき技術だとしても、その精度や応用範囲は日進月歩で進んでいるので、いつかは実現するのかもしれない。

本当にその日が来たら、多くの識者が指摘するように、なかなか人類にとってポジティブな未来は考えにくい気がする。

ローマクラブの「成長の限界」の話も取り上げられている。これまたかなり昔に、この話をきいたことがあったはずだが、その言葉自体忘れていて、懐かしく感じてしまった。

  • ロトカ・ヴォルテラの方程式
しかし話を読んで驚いてしまった。今は 2021 年だが、2000年代途中には人口はピークを迎えつつあるという予測であるという。確かに、日本はすでに人口減少フェーズに入っているし、これが先進国だけでなく、現在途上国といわれる国にも広がっていけば、早晩世界の人口はピークを迎えるだろう。

最後の方で、著者は、この成長の限界を打破するために、上記の技術的特異点を目指した「ゴッド・ライク・マシン」に賭けるしかない、と書いている。最後には、政治的な選択もおおくをコンピュータに任せる世の中もあるのでは、と提案というか妄想されている。その点だけ見れば、権力者が特定の利益集団にのみ配慮したような政策をとるのでなく、ベターな、最大多数の最大幸福を満たすような政策をとる方向に行くかもしれない。

2020-03-29

予防接種は「効く」のか? ワクチン嫌いを考える, 岩田健太郎

光文社新書
2020-03-29 読了(図書館)

「時の人」と言っても過言ではない、岩田健太郎氏の10年ほど前の著作。時期的に2009年の新型インフルエンザの流行のことにも触れられている。
過去、日本の予防接種にまつわる議論はとても幼稚(ナイーブ)だった。(中略)煮え切らない問題に白か黒か、善か悪か、という単純な図式でけりをつけようとしてきたのでした。
ワクチンを打つと副作用が出る(可能性がある)、ワクチンを打たないと病気になってしまう(可能性がある)、ダブルバインドな状態。成熟した大人の態度は、その煮え切らない問題を、「煮え切らない問題」としてまるごとそのまま受け入れ、落としどころを探るというもの。

マスメディアの問題も指摘されている。

  • 複雑で難しい問題なのにもかかわらず、マスメディアの世界では議論は矮小化され、単純化され、分かりやすい「物語」と化しています
  • 問題の原因究明よりも、責任の追及を第一義的な目標にしてしまっている
まったく同感。個人的には、多くのマスメディアが、事柄の全体像を客観的に伝えるよりも、特定の数人のコメントや匿名(「政府高官」「省幹部」とかの言い回し)のコメントで舞台裏を探るような記事など、大切なのはそこではないだろう、と思うことが多い。
予防接種を行う価値のあるワクチンというのは、この「予防接種をせずに病気に苦しむ人」と「予防接種を打って副作用で苦しむ人」とを比較し、前者が後者よりも大きい場合をいう

  • 医療の世界は「被害者がそこにいる時、必ず糾弾すべき加害者がいる」という論法がそぐわない
  • 実際には99%以上の方はワクチンによる被害を受けていない。ほとんどの場合はうまくいっている、まれにイレギュラーな事態が起きた時にそれを激しく糾弾する、という世界観を是としてほしくない
  • それをやればみなが自己弁護し、ときには隠ぺい工作に走る
  • すべてのプレイヤーが道義的な責任を感じ、悔やみ、そして原因の追究(責任の追及ではなく)と改善を行うべき
  • ワクチンを自分に打つのは、自分が病気にならないためだが、みんながそのようにすると 、ワクチンを打っていない人も病気にかかりにくくなる
  • 「前橋レポート」の批判的な検証
  • ワクチンの「外れ年」でさえも、死亡率を下げる効果がある
ホメオパシーそのものの価値や効能については、僕は完全にノーコメントです。ホメオパシーに頼る患者さんも否定しません。
世の中には、自然のものはよいもので、人工的なものはよくないものである、という素朴な信念をお持ちの方がいます。例えば、天然の調味料はよくて、人工調味料はよくない。無農薬野菜はよくて、農薬を使うのはよくない。...この「自然物か人工物か」という議論はナイーブな、意味の小さな議論です。...何の吟味もなしに「人工物だから悪いもの」と断じるのもまたナイーブな議論です。
 建設的な思考、合理的な考え方、という点で一貫している。このような「成熟した議論」のできる世の中にしていかなくてはならない。

2020-03-21

ヤバい統計学, Kaiser Fung (著), 矢羽野薫 (訳)

2020-03-21 読了 (図書館)
阪急コミュニケーションズ
(原題) Numbers Rule Your World -The Hidden Influence of Probability and Statistics on Everything You Do-

統計学は、直観的でないことも多く、それに従うのは難しいが、しかし合理的に行動しようとすれば、避けては通れない。この本では、確率・統計が社会生活に関係した 10 のエピソードを紹介し、「統計的思考」を使ってよりよい判断を下すことを勧めている。

それぞれ非常に面白い話題で、示唆に富む。日本語版のタイトルは、やりすぎだろうが。統計を毛嫌いするのは不毛なだけでなく、合理的な判断をする上では害が多い。

  • Disney Land の行列と "Fast Pass"
  • 高速道路の渋滞を減らすために、ランプで車の入る数を制限する "ramp meter"
  • O157の感染拡大の原因を探ること・ほうれん草
  • クレジットカードの審査のためのクレジットスコア
  • 試験の公平性(属性グループによる差を見つけること)問題ごとに、人種・性別などで正答率に偏りがあるかどうかを見つけることは、それぞれグループ全体を母数とすると良くない
  • 保険、とくにフロリダ州のハリケーン保険: リスク分散と集中
  • ドーピング検査: 偽の陽性、偽の陰性の、影響の非対称性(この本では「間違った陽性」「間違った陰性」と呼んでいる)
  • テロ対策
  • 飛行機事故にあう確率
  • 宝くじ業界の不正

ランプメーターというのがあることを、初めて知った。ただ、この話とディズニーランドの話とを合わせて考えると、人間の感覚としては、「自分が待たされる」というのに苦痛を感じるので、全体的・平均的には待ち時間が減っている、とか言われても、なかなか納得できない。

ドーピング検査の話は、現在の「新型コロナウイルス」検査にも大いに関係する。世の中では、検査で「陰性」だったら、ああよかった、となるだろうが、どんな検査も 100% の精度はありえず、「検査では『陰性』だったけどウイルスに感染している人」(見逃し)「検査では『陽性』だったけどウイルスには感染していない人」(空振り)も、ある割合存在する。

ドーピング検査では、「陽性」となったら、記録がはく奪されたり、今後競技に出られなくなったりするなど、社会的な影響・制裁がかなり大きい。本当にドーピングしている人も「検査のミスだ」と主張するだろう。一方、検査で「陰性」となったら、本当はドーピングをしていても、「潔白が証明された」「よかった」というだけで、「検査のミスだ」とは言わないだろう。このように、影響に明らかな非対称性があるため、検査では例えば、ある指標の数値に基準値を設けそれを超えれば「陽性」と判断するが、ドーピング検査の場合、偽陽性を極力出さないように、その基準値をかなり高めに設定するらしい。そうすると、偽陽性(空振り)は減るが、偽陰性(見逃し)は増えてしまうことになる。

新型コロナウイルスのPCR検査での陽性者の人数が連日報道されているが、以上のようなことを踏まえると、「陽性」となっても、本当は感染していない人がある程度は含まれているだろうということだ。逆に「陰性」となっても、本当は感染している人も含まれているはずということ。ダイアモンド・プリンセス号の乗員・乗客で、下船時の検査では「陰性」だったが、下船後の検査で「陽性」になったというのは、おそらくどちらかの検査で「偽」の結果がでていたためだろう。

ソフトバンクの孫さんが、検査キットを100万個配る、と提案していたが、そうすると、間違えて「陽性」が出てしまう人もかなり大量に出てしまい、(感染していないのであれば病院に行く必要がないのに)そのひとを受け入れられる態勢がなく病院がパンクする、というのも問題の一つなのだろう。

2019-10-20

京大的アホがなぜ必要か カオスな世界の生存戦略, 酒井敏

2019-10-20 読了
集英社新書

新たなものが生まれる過程を知ることができる知的興奮と、カオス、フラクタル、スケールフリーネットワークなどの概念も解説される。

その前半部の話題をもとに、後半(第四章、終章)では、日本の昨今の「大学改革」がいかに危険な道を進んでいるか、危機感を持って語られる。

生態系を壊すような過度な競争を持ち込んではいけない
大学の存在意義は、結果的に出てきたその「成果」ではなく、そういう成果を生み出す「場」にある
生物界はアホのルールで回っています。人間も生物の一種である以上、もっとアホが堂々としていなければなりません。
大嫌いなやつ。絶対合わない、目も合わせたくない。そういう奴も含めての多様性だ。カエルにとってのヘビや、人間にとってのゴキブリこそが多様性だ。

正確でないかもしれないが、生物は40億年もカオスな世界を生き延びてきたが、環境の激変に対応するように進化したというよりは、そういう新しい環境に適応できるような種も突然変異などでできていて、それがたまたま環境の変化に適応する性質だったから生き延びた。そういう多様性を持っておくことが重要。

ナマコを最初に食べた人はすごい、とかねがね思っていたが、そういうチャレンジャー(この本では「アホ」)がいて、食の多様性がひろがった。「選択と集中」をして、例えば米だけ生産することに特化して、もし自然災害などで米がとれなかったら、全滅してしまう。

最後に、学生にむけたメッセージの中で、トーマス・エジソンの名言が引用されている。素晴らしい読後感を与えてくれる。

2019-10-01

必ずくる震災で日本を終わらせないために。, 福和伸夫

2019-10-01 読了
時事通信社

非常に多くの示唆に富む本。語り口調で書かれているので、割と厚い本だがすぐに読める。
  • 多くの企業などがBCPをつくっているが、周り(周辺環境、自治体、取引先、従業員、等々)も被災しているかもしれない、ということをどこまで想定しているか。
  • 市町村など地方自治体の場合、隣接する他自治体との連携は考慮されているか。
いつかは必ずくる大地震などに備えるといっても、なかなか実感がわかないが、想像力を働かせて、常日頃から意識し、対策を考えておくことが重要。

著者は建築学が専門で、自分は耐震設計などについては良く知らないので、「ベースシア係数」「地域係数」「振動特性係数」などなど、すごい考え方だなと思ってしまう。確かに、数値シミュレーションで実際に揺らせてみて、など、個別の案件でいちいちやるのは難しいのだろうが。

2016-07-11

小出裕章が答える原発と放射能, 小出裕章

河出書房新社
2016-07-11 読了

2011年に出版された本をようやく読んだ。なんとなく知っていたこともあるが、放射性廃物についてよく知らなかったことが分かった。

  • 原発は、停止状態でも、使用済み核燃料は熱いままなので冷やし続けなければならない。従って、電源喪失すると危険なのは変わらない。
  • 使用済み核燃料は、再処理が行われて、プルトニウムとウランが取り出される。その残りは高レベル放射性廃物となる。それをガラス固化体にして処分する。このガラス固化体というものは、手で触れるような温度まで冷えるのに100万年かかる。

個人的には、この最終処分にかかる時間の長さを考えると、少なくとも日本国内には、その長期間にわたって変動しないような場所はないのではないかと思われ、そのために「原子力発電システム」は重大な欠陥があると認識した。

「もんじゅ」に至っては、水を使うことができないので、もし事故が起こったら何も対処できず、ただ破局を迎えるだけ、という恐ろしいことが書かれていた。

原発という開発された技術には敬意を示すが、しかしその立地は宇宙空間などに作れるならいざしらず、地球上に作る限りは変動から逃れられないわけで、「絶対安全」などとは絶対に言えない。

2015-09-27

復刻 桜島噴火記, 柳川喜郎

南方新社
2015-09-27 読了

桜島の大正噴火の際の、地震観測業務を担っていた測候所と、島民避難の様子などを克明に描いている。

当時は測候所内の地震計1台だけで、震源決定を行なっていたそうで、それで火山噴火の予測は困難だろうが、一方で、いくら観測が充実していても、結局のところ噴火するのかどうか、それによって避難が必要なほどの被害が生じるのかどうか、を事前に予期するのは現在でも難しいところだと思う。また火山に限らず、地震・水害など自然災害はそのような不確かな見通しのもとで、避難するかどうかなどの対応を決めないといけないが、そのギャップは今もあるだろう。非常に示唆に富む。

2015-05-06

もうダマされないための「科学」講義, 菊池誠, 松永和紀, 伊勢田哲治, 平川秀幸, 飯田泰之+SYNODOS (編)

光文社新書
2015-05-06 読了

講演をもとにした(文章に起こした?)と思われる3つ+書き下ろし1つがメイン。本のタイトルは「『科学』講義」となっているが、かなり広い意味での「科学」が話題。3章はマスメディアの問題、4章は科学コミュニケーション。それぞれに興味深いが、特に講演をもとにした部分は、短いこともあり、やや食い足りない印象がある。

付録は読み物として面白いだけでなく、信頼できる情報源へのリンクなどが豊富に示されており、参考になる。

2013-11-17

リスクのモノサシ 安全・安心生活はありうるか, 中谷内一也

NHKブックス
2013-11-17 読了

内容は前半と後半の2つに大きく分かれる。

前半では、研究者、マスメディア、情報の受け手、それぞれの点での特性を検討し、リスク情報を出す側が、誰でもわかり易く標準化されたモノサシ(たとえばガンや交通事故での死亡率など5項目程度の確率のセット)とともに、伝えようとしているリスク情報の確率を伝えることを提案している。

後半ではたとえば一般市民の政府や各種機関・企業などに対する信頼がどのようなプロセスを通して形成・失墜・回復しうるかという、主として情報を受け取る側の心理・認知面のメカニズムを探ることで、情報を出す側・施策や事業を行う側がとるべき方向性を議論している。

その上で、新しいリスク情報は、目前に明らかに危機が迫っているというようには感じないので、ほぼ安全な場合でもその情報を見聞きすると、安心ではなく不安になる、ということで、「安全・安心」はありえない、という。

後半部が特に面白い。

2013-08-11

遺伝子の不都合な真実, 安藤寿康

ちくま新書
2013-08-11 読了

副題に「すべての能力は遺伝である」とあるが、そこまでは主張していないにしても、さまざまな能力のある割合は遺伝の影響がある、という指摘。言われてみれば、競馬は血統を重視するし、人間でも外見や身長など明らかに遺伝の影響があるのに、能力だけは遺伝の影響がないというほうが不自然だ。

人間だけが「教育」を行なっている、という話は面白いと同時に重要だ。教育の目的を考える上でも重要な本。

2013-02-07

虚像の砦, 真山仁

角川書店
2013-02-07 読了 (図書館)

タイトルの読みは「メディアのとりで」。
実際にあった話を織りまぜてリアリティをだす、この作家お得意の手法(?)。今回はテレビ局。

ミステリ的な読み方もできそうな感じ。最後に黒幕(?)。最後があっという間に収束した感がある。

この作者の小説は他のもそうだが、場面の時と場所が、節の初めに○月○日△時というように書かれている。これはわかりやすい場合もあるのだが、場面や時間が飛んだときなど、それをみて確認しなければならない場合、わかりづらい仕組みだ。テレビドラマ風演出か。

2012-08-26

ベイジン (上) (下), 真山仁

東洋経済新報社
2012-08-26 読了 (図書館)

事前情報なく図書館で見つけて読んでみた。すると、この作者お得意の(?)経済小説とはちょっと違い、日本の原子力技術者と中国の役人が中心となって世界最大の加圧水型原子炉を中国に作るという話。ちょうど北京オリンピックが開催された2008年夏に向けて、雑誌に連載されていたようだ。

様々な登場人物が、それぞれの視線・立場から、オリンピックや原発にかかわっていて、いろいろな読み方ができると思う。自分はやはり、技術者が可能な限りの力を尽くして、安全で素晴らしい発電所を作り上げるというところに惹かれる。巨大なプロジェクトなので一筋縄ではいかないところも良くできていると思う。逆に、映画監督の筋は必要性が良く分からない。

後半の発電所での事故は、福島第一原発の事故を彷彿とさせる。現実は小説よりも奇なりとはよく言ったもので、現実の福島のほうがはるかに深刻な事態を招いてしまっている。それにしても、全電源喪失やベントなど、有名になってしまったことがらを、見てきたように描いているのはすごい。奇しくも、小説内でも言及されているが、原発はどこか一つで重大事故が発生すると、世界的にアゲインストの影響が出るということだ。核分裂を制御し、そのエネルギーを取り出す技術自体はすばらしいと思うが(廃棄物の問題は残るが)、実際にそれを作るのは実験室のような他の影響のない理想空間ではなく、雨も降れば風も吹く、地震もあれば津波もある地球上で、しかもそちらを制御するのはほぼ不可能というところが、根本的な問題か。施設の規模を小さくして立地の制約を緩くするとか、太平洋どまんなかの深海底で稼働できるようにするとか、が必要か? すでに検討されているかもしれないが。

神戸・元町の中華街(南京町)も舞台の一つになっている。そこに出てくる中華料理店「小小心縁」は実名で存在するらしい。

2012-08-19

金持ちいじめは国を滅ぼす, 三原淳雄

講談社+α新書
2012-08-19 読了 (図書館)

タイトルに惹かれて借りて読んでみたが、タイトルは単に多くのトピックのうちの一つを示しているだけのようで、いつものように(?)政府・国会議員・官僚・日本人・などなど、やや大づかみではあるが、最近の風潮に反して正論と思える、ときに耳の痛い主張を堂々と披露されている。

まえがき
2100年にどういう日本を残したいか、将来の孫子のためにどんな国を残すか、そのために自分は何ができるか、一度ぜひ考えてもらいたいのである。

第1章
日本の将来は具体的には、「金融立国」「投資立国」「ブランド立国」「知財(知的財産権)立国」ということになるだろう。もはや額に汗して機械の代わりになるような労働力が主体になる経済など、日本では絶対にありえない。

2012-08-17

真相ライブドアvs.フジ, 日本経済新聞社(編)

日本経済新聞社
2012-08-17 読了 (図書館)

この本は、2005年の株式会社ライブドア(当時)と株式会社フジテレビジョンによる、株式会社ニッポン放送の株式争奪戦およびそれによる株式会社フジテレビジョンの経営権を狙った一連の出来事について書かれている。それが一応の結論をみた直後に出版されているようだ(2005年6月22日発行)。なので、もっと劇的な、その後の強制捜査および堀江氏らの逮捕、刑事・民事訴訟については触れられていない。

副題が「日本を揺るがした70日」とあり、その間の両者および関係者の動きなどは分かりやすくまとまっている。また株式会社ニッポン放送と株式会社フジテレビジョンの資本が逆転関係になった経緯についても触れられており、納得できた。

しかし、天下の日経新聞が書いた本にしては、様々な戦術や経済的概念などについての記述が物足りない。まるで一般紙を読んでいるようだ。しかも、株式分割で株価が上昇したことの説明は、重要な点が明らかに不足していると思われる。Wikipediaには

この現象の原因の一つには、分割権利落日(2003年12月26日)には1株単価が100分の1になるが、当時、新株は制度上の理由からおよそ2ヵ月後(2004年2月2日)にならないと受渡が行われなかったので、その間、流通株の時価総額が分割前の100分の1となり需給が逼迫したとされている。

とあるし、橘玲「臆病者のための株入門」でも、当時の制度上の欠陥を主因に挙げ、株式分割で株価が上昇したメカニズムを分かりやすく解説していた。それに対してこの本では

株式分割をやっても企業の価値自身に変化はないので、本来は分割で時価総額が大きく変わることはない。ところが実際には分割すると、新株が流通するまでの一時期、株式市場に出回る株券が相対的に少なくなり、受給が逼迫、わずかな買いで株価が上昇しやすくなることがある。(p. 67)

と、制度上の問題点については触れられていない。しかもこの少し後の部分には

ちなみに、大幅な株式分割に対しては、東京証券取引所などが上場企業に実行しないよう要請。今では事実上、実施できなくなった。大幅分割は違法行為ではないが、それだけ「危うさ」のつきまとった手法だったのだ。

と書かれている。もちろん株式分割の事務処理に多少の手間はかかるだろうが、しかし上の引用部分にも書かれているとおり、株式分割は本来企業価値に関係ないし、小口にすることで売買が活発になり、証券取引所にとっても悪くない話のはずだ。邪推するに、取引が小口化されすぎると、取引所で捌かなくてはならない取引数が莫大になり、(貧弱な)取引システムでは追いつかなくなるので、あまり分割しないでください、というお願いベースの話だろうと思う。それを「危うさのつきまとった手法」と言ってしまうのは、本当に「経済」新聞かと驚く。

また、この本には関係ない部分ではあるが、その後の証券取引法違反容疑での捜査・逮捕・裁判などは、同様な証券取引法違反(粉飾決算)をやったカネボウ株式会社や日興コーディアルグループにくらべてはるかに重い社会的制裁を受けた。しかもライブドアは利益を水増ししたとされていて、そのために余分な納税も行なっているらしい。「伝統ある」日本企業はそうとうなことをやっても、会社が潰れるくらいにならないと立件されないし、上場廃止にもならなかったのに対し、ライブドアのような「ぽっと出の」会社は、強制捜査をやろうが、それで株価が下がろうが、上場廃止にしようが関係ない、のだろう。そのような「出る杭は打たれる」ような社会にしておきながら、一方で、日本には起業が少ない、とか言っているのは一体どういうつもりなのだろうか。ライブドアがどのような事業をしていたか詳しく知っていたわけではないし、それを擁護するつもりはないが、この事件をきっかけにしてもたらされた日本の新興市場の冷え込みや社会の閉塞感などが回復することはあるのだろうか。

この本が対象にしている期間では、この対決は日本を揺るがしたのではなく、既得権益に守られたテレビや新聞などマスメディアの関係者が揺さぶられたのだろう。それでもニッポン放送やフジテレビジョンは、上場しているためにこのようなターゲットになり得た。株式会社日本経済新聞社、株式会社読売新聞グループ本社、株式会社朝日新聞社、株式会社毎日新聞社はすべて非上場。おかげでこのようなターゲットになる心配はないし、上場に必要な情報公開はしなくていい。もちろんわざわざ上場して市場から資金を集めてやるほどの事業がないのだろうし、企業価値が上がらなくても良いのだろう。

ところでこの本を読んで思い出したことが一つ。この騒動の最中に堀江氏がよく言っていたセリフが
想定の範囲内です。
であった。

2012-06-23

復興特別所得税創設、大増税時代到来?

今気づいたが、「復興特別所得税」というものが去年新設されていた。平成25年から平成49年まで、通常の所得税額の2.1%が追加で徴税されるようだ。

どうやら、まもなく消費税も増税になりそうだし、すでに所得税控除の対象も次々と減らされているし、まさに大増税時代の到来か。

消費税が導入されるときや、税率が上げられるときなどは、「福祉目的に使途を限る」などが言い訳としてよく聞かれたが、今は「復興」がキーワードのようだ。

もちろん、震災からの復興にお金がかかるのは理解できるが、本当に無駄はないのか。余計な「事業」を行うために予算が費やされていないのか。

財務省の目的は債務の縮小だろうから、歳出も絞るだろうが、国の収入増=税率up もしたいだろうし、一旦上げた税率は「暫定」だろうがなんだろうが、引き下げるのはまず期待できないだろう。今回の「復興特別所得税」も、25年間も続くという。ほとんど「恒久増税」と言っているに等しい。たぶん25年後には、所得税本体もだいぶ上がっているだろうから、本体に吸収されるか、名前を変えて続くか、いずれにせよ、なくなることはないだろう。

香港は英国が99年間という約束で借りていた。それが始まったときはほとんど無限という意味だったようだが、1997年に約束通り中国に返還された。

消費税が上がるなら、他のこのような「暫定」「特別」税がなくなるとか、所得税率を引き下げるとか、バランスをとるならよいのだが、なかなか望みは薄そうだ。

このままいくと、「高税率・低福祉」の国が実現しそうだ(もう実現しているか?)。

もしかして、物価が全然上がらないので、消費税を上げてインフレ状態にしようとしているのか?というブラックジョークも言いたくなる。

これで景気が良くなるわけがないだろうなあ。orz...

2012-06-09

電球販売の自粛よりテレビ放送の自粛のほうが効果が高い

こういう記事には延髄反射で反応してしまう:

夏の節電対策、白熱電球の販売自粛を…政府方針
読売新聞 6月9日(土)14時47分配信

今夏の節電対策のため、政府は家電量販店やメーカーに対し、電力消費の多い白熱電球の販売・生産の自粛を求める方針を固めた。
(以下略)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120609-00000495-yom-soci

これは、業界も白熱電球の生産からはシュリンク気味で、もっと利幅の大きいLED電球や電球型蛍光灯などを売りたいだろうから、むしろ業界が政府にはたらきかけた可能性もあるのではないか。(政府はなにかやっている、というようにアピールできるし、業界も、LEDなどの宣伝になり、ひょっとしたら売上も増えるかもしれない)

しかし、確かに60Wの消費電力の白熱電球を、数WのLED電球に替えるのも良いかも知れないが、それなら、しょうもない番組で公共の電波を独占しているテレビの、夏季昼間の放送停止を要請してはどうか。エアコンと違って、テレビを消しても健康に害がないばかりか、むしろ健康増進にも役立つかもしれない。液晶テレビが普及しているようだが、それでも数100Wの消費電力がある。

明らかに、これは電機業界や放送業界の利害と真っ向から対立するので、間違ってもこのような要請はできないだろうが。

本当に効果がある(意味のある)政策はほとんどとれないし、このようなほとんど意味のないことを実施するための役人・部署がある、というのが無駄に思える。

「科学的思考」のレッスン, 戸田山和久

NHK出版新書
2012-06-05 読了

科学の知識そのものはどんどん陳腐化していくが、科学の思考方法は変わらない。それをいくつかのステップに分けて勉強することができる。はじめの2~3の章を読むだけでも、この本を買う価値がある。

2分法的思考はヤバイ

しかも第2部では、3.11後の放射線問題を例に、「なにか難しいことは専門家に任せておけば良い」というような考え方は非常に危険で、市民がそのリスクに向きあい、他のリスクと比較した上で、ひとりひとりがどう行動するかを選択する必要がある、と説く。

大変情報量が多い。

2012-05-19

人口動態統計

以前のエントリで、日本の原因別の年間死者数の統計としてどのようなものがあるか関心をもったので、Internetで検索してみた。すると、厚生労働省が「人口動態統計」という名前で、毎年(速報は毎月)発表されているようだ。


あたりまえといえばあたりまえだが、死因は病気が一番多い(だから厚生労働省が調査しているのか?)。しかし、気になるというか、見逃せない点として
  • 自殺者が年に3万人近くいる (2010年は29,554人)
  • 15歳から39歳までの死因のNo.1は自殺
  • 出生数は、1970年台前半の第2次ベビーブームの時は、年間200万人くらいだったのが、2010年は107万人
  • 婚姻件数はそれに比べたら減り方は緩やかで、 1970年台前半が約100万件/年に対し、2010年は約70万件
  • 離婚件数は急増: 1970年台前半の約10万件/年に対し、2010年は約25万件/年
などが目を惹く。

また、別の視点で、いわゆるガンだと思うが、「悪性新生物」が原因で亡くなられた方は、2010年で35万人で、人口10万人あたり280人の割合。これを多いと見るか、少ないと見るかはともかく、このようなデータがもとになって、(必要経費をガツンとのせたうえで)ガン保険などの保険料が決められているのだろうな、と思った次第。当然、これらのデータは年齢別にもあり、さらに都道府県別にもなっていて、保険業界には至れり尽くせり。こんなデータがタダで手に入るのなら、いったいなにに「経費」をかける必要があるのか知りたいものだ。所得税の控除でも、生命保険は優遇されているし。

2012-05-04

モモ, ミヒャエル・エンデ (著), 大島かおり (訳)

MOMO, Michael Ende
岩波書店
2012-05-03 読了

昔、家の本棚にこの本があったような気がするが、ついぞ読まないまま、こんな歳(どんな歳?)になってしまった。今回、たまたま本を手にとる機会があり、読むことができた。

「児童文学」ということになっているようだが、こんな歳(どんな歳?)の中年でも十分に楽しむことができた。扱われているテーマ「時間」も深淵だ。ストーリーもSFとも言えるしミステリとも言えるし、はたまた社会問題も入っているようなもので、中盤の逆境や後半のスピード感などによって、ついつい次のページをめくってしまった。

自分が、残りの人生の時間を意識せざるを得ない年齢になったからこそ、興味を惹かれたのかもしれない。

もちろん小学生高学年くらい(?)以降であれば楽しめるだろう。それぞれの読み方ができるのだろうと思う。自分は若い時に読んでいないので分からないが。

こんな本があるから読書は楽しい。