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2021-10-30

亜玖夢博士の経済入門, 橘玲

2021-10-30 (2回目) 読了 (図書館)
文藝春秋

以前も読んだはずだが、とくに最後の方はほとんど覚えていなかった。

それはともかく、本のタイトルは「経済入門」となっているが、扱われている話題は「多重債務」「利権争い」「いじめ」「マルチ商法」「自分探し」で、経済? と思わないでもないが、さらにそれらで扱われている科学的な内容としては「行動経済学」「ゲーム理論」「ネットワーク理論(ワッツ、ストロガッツ)」「社会心理学」「ゲーデルの不完全性定理」と、経済の範疇を超えているように思える。

もちろん、この本を読んだだけでそれらの先端科学を理解できるわけではないが、どのような内容なのか雰囲気に触れることはできる(かもしれない)。

もっとも、そのような科学に興味が無くても、連続短編小説としてよくできていて、非常に面白い。

2021-03-13

2045年問題 コンピュータが人類を超える日, 松田卓也

 2021-03-13 読了(図書館)

廣済堂新書


Ray Kurzweil などによって言われている技術的特異点の話。

SF映画などで描かれてきた知能を持ったコンピュータが実現したあかつきには「特異点」となり、それより未来は予測不能という予測を、著者自身の長年のコンピュータとのかかわりあいなどの話も織り交ぜ、紹介していく。

確かに、コンピュータの進歩は、ムーアの法則で知られるように、その性能を指数関数的に向上させてきた。また、「AI」「人工知能」という言葉を見ない日はないくらい、技術開発がどんどん進んでいるようだ。ただ素人目には、コンピュータが高性能になっても計算速度が速くなってきたということで、その本質は変化していないように思う。いまの多くの「AI」も、知る限りでは機械学習というべきもので、そこに独自の意識が出現するというものとは違うように感じる(知らないだけかもしれないが)。

余談だが、AIと聞いて思い出すのは、ひと昔まえ(ふた昔?)、ATOK (ジャストシステムのかな漢字変換ソフト)が、使用者の入力内容を学習し、変換候補を入れ替えて提示してくれる機能を「AI 変換」とか呼んでいた気がする。

そうはいっても、コンピュータに意識を出現させる、ということをまじめに研究している人たちは必ずいるだろうし、たとえ機械学習と呼ぶべき技術だとしても、その精度や応用範囲は日進月歩で進んでいるので、いつかは実現するのかもしれない。

本当にその日が来たら、多くの識者が指摘するように、なかなか人類にとってポジティブな未来は考えにくい気がする。

ローマクラブの「成長の限界」の話も取り上げられている。これまたかなり昔に、この話をきいたことがあったはずだが、その言葉自体忘れていて、懐かしく感じてしまった。

  • ロトカ・ヴォルテラの方程式
しかし話を読んで驚いてしまった。今は 2021 年だが、2000年代途中には人口はピークを迎えつつあるという予測であるという。確かに、日本はすでに人口減少フェーズに入っているし、これが先進国だけでなく、現在途上国といわれる国にも広がっていけば、早晩世界の人口はピークを迎えるだろう。

最後の方で、著者は、この成長の限界を打破するために、上記の技術的特異点を目指した「ゴッド・ライク・マシン」に賭けるしかない、と書いている。最後には、政治的な選択もおおくをコンピュータに任せる世の中もあるのでは、と提案というか妄想されている。その点だけ見れば、権力者が特定の利益集団にのみ配慮したような政策をとるのでなく、ベターな、最大多数の最大幸福を満たすような政策をとる方向に行くかもしれない。

2020-12-28

作家の収支, 森博嗣

2020-12-28 読了
幻冬舎新書(図書館)

作家が自作の小説などで得る収入についていろいろと書かれている。それだけで一冊の本ができるというのも驚きだ。

印税も10%と決まっているわけではなく、その時々の契約による、という。入試問題などに使われると、別途使用料などを請求できる。

これを知ったからと言って、自分自身には特に参考になるわけではないが、「継続的に作品を書かなくてはだめ」みたいなことも書かれていて、当たり前だが非常にプロ意識を感じる。

2017-07-22

マンガでわかるゲーム理論, ポーポー・ポロダクション

2017-07-22 読了
サイエンス・アイ新書, SBクリエイティブ

序論に、豊臣秀吉のまえで前田慶次が「かぶく」場面が取り上げられていて、関心を惹かれた。
豊富な事例(ケーススタディ)をもとに、最適な戦略やゲーム理論の概念「ナッシュ均衡」「パレート最適」などが解説される。
ゲーム理論のことを分かっているわけではないが、理論自体の有用性はありそうに思えたが、この本だけではなぜ「ナッシュ均衡」「パレート最適」という概念が必要とされるのかがよく分からなかった。

2017-07-07

経済数学の直観的方法 確率・統計編, 長沼伸一郎

2017-7-6 読了
講談社ブルーバックス

経済学の二大難解理論の一つである、ブラック・ショールズ方程式の理解を目標とした、確率・統計編。
姉妹本である、「マクロ経済学編」と同様、「初級編」「中級編」「上級編」の3章構成。

この著者特有の、さまざまな「小道具」(もちろん空想上のものだが、思考実験ともいえる)が出てきて、ガウス分布、中心極限定理、確率微分方程式などなどが解説される。ほとんど前提知識なしにこの本を読んでも、これだけ高度な内容の話の流れを追えるように書かれているのはすごいと感心するが、もっと切れ味の鋭い解説を期待していたので(特に確率・統計の基礎的内容)、少々肩透かし感もある。

はじめから内容に入っていたので、経済学の歴史のような話はないのかと思っていたら、「教養としてのブラック・ショールズ理論」という節がちゃんと用意されており、「年何%の成長」(長期的には指数関数的にならざるを得ず、個人的には維持不能に思える)という現代の価値観というか世界とは異なる「直線的な成長」という視座もあるということから、話を大きく膨らませての言説はいつもながら面白い。


2015-01-10

ファスト&スロー (上)(下), ダニエル・カーネマン (著), 村井章子 (訳)

Thinking Fast and Slow, Daniel Kahneman
ハヤカワ・ノンフィクション文庫
2015-01-10 読了

「ノーベル経済学賞」という冠はあまり関係なく、心理学だろう。
ダン・アリエリーの本ほど軽快ではないが(そもそも他の分野の本でもあれほど軽快な本はなかなか無いが)、豊富な研究成果に基づく、人間の「意思決定」のメカニズムについて知ることが出来る。自分自身の経験に照らしても、頷くところは多い。
もちろん、「プロスペクト理論」の部分はさすがに読み応えがある。

2014-07-21

予想どおりに不合理, ダン・アリエリー (著), 熊谷淳子 (訳)

Predictably Irrational, Dan Ariely
ハヤカワノンフィクション文庫
2014-7-21 読了

以前、講演でみて驚いたように、1章の、選択肢の与えられ方によって、我々は判断を変えてしまう、というのはやはり面白い。

それ以外も興味深いが、我々は「社会規範」と「市場規範」という2つの世界に住んでいる、という話が印象深い。

Talk は抜群に面白かったが、本もやっぱり非常に読みやすい。

2013-01-25

レッドゾーン, 真山仁

講談社
2013-01-25 読了 (図書館)

アカマ自動車。

最後のほうがやや端折りぎみか。

日光がほとんど登場しなかったのがやや残念。

団体や登場人物はすべて架空とはいえ、中国の車メーカーのことを良くは書いていないので、いらぬ心配をしてしまう。

2012-08-24

バイアウト (上) (下), 真山仁

講談社
2012-08-24 読了 (図書館)

ハゲタカ」の続編。
世の中の(というかマスメディアが作り上げた?)買収ファンドのイメージでは、弱い相手に対して資金力にものを言わせて買収してしまう、という感じだと思うが、この本では(そして実際は)、情報力・交渉・駆け引きなどの能力が重要という。実際にそうだろう。

ところで、かの Warren Buffett は、株式投資で米国第2位の資産を築いたとよく言われるが、「スノーボール」によると、投資した会社に自ら乗り込んでいったりする(経営する)こともあるようだ。そう考えると、本質的には両者に違いはないことになる。

株は英語で share とか stock とか equity とか呼ばれる。share は端的に「会社の所有割合・区分所有」ということだろう。というわけで当たり前だが、株式投資とは会社(の一部分)を買うことに他ならない。

またその株式が上場(公開)されているということは、会社(のある割合)を自由に売買できるということだ。買われたくない会社は非上場にするしかない。

鷲津のセリフが端的:
株式市場に上場したら、会社を買ってくださいという意味だと、私が日頃から申し上げている...

そう思うと、日本は「最も成功した社会主義国」と言われることがあるが、曲がりなりにも株式市場があるのが殆ど奇跡的に思える。

2012-08-19

金持ちいじめは国を滅ぼす, 三原淳雄

講談社+α新書
2012-08-19 読了 (図書館)

タイトルに惹かれて借りて読んでみたが、タイトルは単に多くのトピックのうちの一つを示しているだけのようで、いつものように(?)政府・国会議員・官僚・日本人・などなど、やや大づかみではあるが、最近の風潮に反して正論と思える、ときに耳の痛い主張を堂々と披露されている。

まえがき
2100年にどういう日本を残したいか、将来の孫子のためにどんな国を残すか、そのために自分は何ができるか、一度ぜひ考えてもらいたいのである。

第1章
日本の将来は具体的には、「金融立国」「投資立国」「ブランド立国」「知財(知的財産権)立国」ということになるだろう。もはや額に汗して機械の代わりになるような労働力が主体になる経済など、日本では絶対にありえない。

2012-08-17

真相ライブドアvs.フジ, 日本経済新聞社(編)

日本経済新聞社
2012-08-17 読了 (図書館)

この本は、2005年の株式会社ライブドア(当時)と株式会社フジテレビジョンによる、株式会社ニッポン放送の株式争奪戦およびそれによる株式会社フジテレビジョンの経営権を狙った一連の出来事について書かれている。それが一応の結論をみた直後に出版されているようだ(2005年6月22日発行)。なので、もっと劇的な、その後の強制捜査および堀江氏らの逮捕、刑事・民事訴訟については触れられていない。

副題が「日本を揺るがした70日」とあり、その間の両者および関係者の動きなどは分かりやすくまとまっている。また株式会社ニッポン放送と株式会社フジテレビジョンの資本が逆転関係になった経緯についても触れられており、納得できた。

しかし、天下の日経新聞が書いた本にしては、様々な戦術や経済的概念などについての記述が物足りない。まるで一般紙を読んでいるようだ。しかも、株式分割で株価が上昇したことの説明は、重要な点が明らかに不足していると思われる。Wikipediaには

この現象の原因の一つには、分割権利落日(2003年12月26日)には1株単価が100分の1になるが、当時、新株は制度上の理由からおよそ2ヵ月後(2004年2月2日)にならないと受渡が行われなかったので、その間、流通株の時価総額が分割前の100分の1となり需給が逼迫したとされている。

とあるし、橘玲「臆病者のための株入門」でも、当時の制度上の欠陥を主因に挙げ、株式分割で株価が上昇したメカニズムを分かりやすく解説していた。それに対してこの本では

株式分割をやっても企業の価値自身に変化はないので、本来は分割で時価総額が大きく変わることはない。ところが実際には分割すると、新株が流通するまでの一時期、株式市場に出回る株券が相対的に少なくなり、受給が逼迫、わずかな買いで株価が上昇しやすくなることがある。(p. 67)

と、制度上の問題点については触れられていない。しかもこの少し後の部分には

ちなみに、大幅な株式分割に対しては、東京証券取引所などが上場企業に実行しないよう要請。今では事実上、実施できなくなった。大幅分割は違法行為ではないが、それだけ「危うさ」のつきまとった手法だったのだ。

と書かれている。もちろん株式分割の事務処理に多少の手間はかかるだろうが、しかし上の引用部分にも書かれているとおり、株式分割は本来企業価値に関係ないし、小口にすることで売買が活発になり、証券取引所にとっても悪くない話のはずだ。邪推するに、取引が小口化されすぎると、取引所で捌かなくてはならない取引数が莫大になり、(貧弱な)取引システムでは追いつかなくなるので、あまり分割しないでください、というお願いベースの話だろうと思う。それを「危うさのつきまとった手法」と言ってしまうのは、本当に「経済」新聞かと驚く。

また、この本には関係ない部分ではあるが、その後の証券取引法違反容疑での捜査・逮捕・裁判などは、同様な証券取引法違反(粉飾決算)をやったカネボウ株式会社や日興コーディアルグループにくらべてはるかに重い社会的制裁を受けた。しかもライブドアは利益を水増ししたとされていて、そのために余分な納税も行なっているらしい。「伝統ある」日本企業はそうとうなことをやっても、会社が潰れるくらいにならないと立件されないし、上場廃止にもならなかったのに対し、ライブドアのような「ぽっと出の」会社は、強制捜査をやろうが、それで株価が下がろうが、上場廃止にしようが関係ない、のだろう。そのような「出る杭は打たれる」ような社会にしておきながら、一方で、日本には起業が少ない、とか言っているのは一体どういうつもりなのだろうか。ライブドアがどのような事業をしていたか詳しく知っていたわけではないし、それを擁護するつもりはないが、この事件をきっかけにしてもたらされた日本の新興市場の冷え込みや社会の閉塞感などが回復することはあるのだろうか。

この本が対象にしている期間では、この対決は日本を揺るがしたのではなく、既得権益に守られたテレビや新聞などマスメディアの関係者が揺さぶられたのだろう。それでもニッポン放送やフジテレビジョンは、上場しているためにこのようなターゲットになり得た。株式会社日本経済新聞社、株式会社読売新聞グループ本社、株式会社朝日新聞社、株式会社毎日新聞社はすべて非上場。おかげでこのようなターゲットになる心配はないし、上場に必要な情報公開はしなくていい。もちろんわざわざ上場して市場から資金を集めてやるほどの事業がないのだろうし、企業価値が上がらなくても良いのだろう。

ところでこの本を読んで思い出したことが一つ。この騒動の最中に堀江氏がよく言っていたセリフが
想定の範囲内です。
であった。

2012-06-23

復興特別所得税創設、大増税時代到来?

今気づいたが、「復興特別所得税」というものが去年新設されていた。平成25年から平成49年まで、通常の所得税額の2.1%が追加で徴税されるようだ。

どうやら、まもなく消費税も増税になりそうだし、すでに所得税控除の対象も次々と減らされているし、まさに大増税時代の到来か。

消費税が導入されるときや、税率が上げられるときなどは、「福祉目的に使途を限る」などが言い訳としてよく聞かれたが、今は「復興」がキーワードのようだ。

もちろん、震災からの復興にお金がかかるのは理解できるが、本当に無駄はないのか。余計な「事業」を行うために予算が費やされていないのか。

財務省の目的は債務の縮小だろうから、歳出も絞るだろうが、国の収入増=税率up もしたいだろうし、一旦上げた税率は「暫定」だろうがなんだろうが、引き下げるのはまず期待できないだろう。今回の「復興特別所得税」も、25年間も続くという。ほとんど「恒久増税」と言っているに等しい。たぶん25年後には、所得税本体もだいぶ上がっているだろうから、本体に吸収されるか、名前を変えて続くか、いずれにせよ、なくなることはないだろう。

香港は英国が99年間という約束で借りていた。それが始まったときはほとんど無限という意味だったようだが、1997年に約束通り中国に返還された。

消費税が上がるなら、他のこのような「暫定」「特別」税がなくなるとか、所得税率を引き下げるとか、バランスをとるならよいのだが、なかなか望みは薄そうだ。

このままいくと、「高税率・低福祉」の国が実現しそうだ(もう実現しているか?)。

もしかして、物価が全然上がらないので、消費税を上げてインフレ状態にしようとしているのか?というブラックジョークも言いたくなる。

これで景気が良くなるわけがないだろうなあ。orz...

2012-06-09

電球販売の自粛よりテレビ放送の自粛のほうが効果が高い

こういう記事には延髄反射で反応してしまう:

夏の節電対策、白熱電球の販売自粛を…政府方針
読売新聞 6月9日(土)14時47分配信

今夏の節電対策のため、政府は家電量販店やメーカーに対し、電力消費の多い白熱電球の販売・生産の自粛を求める方針を固めた。
(以下略)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120609-00000495-yom-soci

これは、業界も白熱電球の生産からはシュリンク気味で、もっと利幅の大きいLED電球や電球型蛍光灯などを売りたいだろうから、むしろ業界が政府にはたらきかけた可能性もあるのではないか。(政府はなにかやっている、というようにアピールできるし、業界も、LEDなどの宣伝になり、ひょっとしたら売上も増えるかもしれない)

しかし、確かに60Wの消費電力の白熱電球を、数WのLED電球に替えるのも良いかも知れないが、それなら、しょうもない番組で公共の電波を独占しているテレビの、夏季昼間の放送停止を要請してはどうか。エアコンと違って、テレビを消しても健康に害がないばかりか、むしろ健康増進にも役立つかもしれない。液晶テレビが普及しているようだが、それでも数100Wの消費電力がある。

明らかに、これは電機業界や放送業界の利害と真っ向から対立するので、間違ってもこのような要請はできないだろうが。

本当に効果がある(意味のある)政策はほとんどとれないし、このようなほとんど意味のないことを実施するための役人・部署がある、というのが無駄に思える。

2012-05-08

まぐれ, ナシーム・ニコラス・タレブ (著), 望月衛 (訳)

Fooled by Randomness, Nassim Nicholas Taleb
ダイヤモンド社
2012-05-08 読了

以前読んだ、同じ著者の「ブラックスワン」と同様に(出版はこの「まぐれ」の方が先)、話があっちゃこっちゃにとんで、かつ、例としてあげられている話や説明も、わざと分かりにくく言っているようにも見え、結局言いたいことがなにか、つかむのが非常に難しい文体だが、著者自身が書いているとおり、これはエッセイらしいので、そう思うと、少しだけ気が休まる。

それにしても(本筋以外の?)話題は非常に広範に及ぶ。神話や哲学、疫学、複雑性の科学、心理学、そして経済学。

だがこの著者の立場は、とにかく、正規分布や人間の合理的な行動などを前提とした、スタンダードなファイナンス理論などは、現実にはまったく役に立たない、ということのようだ。「ブラックスワン」でさらに話題になっているように、例えば市場における株価の変動は、正規分布にはならないし、滅多におこらないはずの大暴落など「10シグマの外れ値」も数年に1度は起こっているような気もする。たしかにそれを受け入れたら、年金基金などが一般に使っているように、過去の価格変動の標準偏差でその資産のリスクをはかる、というやり方では、当然ながらリスクを評価したことにはならない。さらに危険なことに、実際はそうではないのに「リスクを抑えた運用」などをしているつもりになってしまっているかもしれない。

個人的には、行動ファイナンスの話が面白かった。Daniel Kahneman, Amos Tversky の名前が何度も登場した。

著者は13章, 14章がいちばん言いたかったことのようだが、残念ながら私にはまったく分からなかった。それでも豊富な挿話やキーワードを見るだけでも、楽しめた。

以下、特に気になった記述を引用:

(2章) ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴァスキーの実験:
ほとんどの人は、北アメリカのどこかで(何千人もの命を奪うような)壊滅的な洪水が起きる可能性よりも、カリフォルニアで地震があって(何千人もの命を奪うような)壊滅的な洪水が起きる可能性のほうが高いと判断する。
人は何か抽象的なことに対して保険を掛けるのを嫌う。彼らが注意するのは、いつも、もっと生々しいリスクのほうなのだ。

(2章) リスクに気づいたりリスクを避けたりといった活動のほとんどをつかさどるのは、脳の「考える」部分ではなく「感じる」部分なのだ(「リスクは感覚」だとする理論がそれだ)。リスクを避けようとするとき、合理的な考えは少ししか関係ないし、ほとんど関係ないと言っていい。

(3章) 期間を短くとると、ポートフォリオのリターンではなくリスクを観察することになる。つまり、見えるものはほとんどばらつきばかりだ。

(4章) 進化とは一つの、かつ、たった一つの時系列に適応することであって、あり得るすべての環境の平均に適応することではないのだ。

6章では、頻度(確率)と期待値の違いが述べられている。分布が対称なら、両者の違いはあまり気にしなくてよいが、非対称(稀にしか起こらないが、起こると大損・大儲けすることがあるなど)なら、頻度でなく期待値を考えないといけない。

(6章) ファイナンスの人たちは、彼らのやり方を真似て、めったに起きない事象を無視してしまった。だから彼らは、稀な事象のせいで企業が倒産したりすることに気づかない。(中略)ファイナンスでもそうだけれど、重大な結果をもたらす事象は、めったに起きなくても無視してはいけないのである。(「外れ値」を取り除いたりするが、それをして良い場合と悪い場合とがある)

(9章) 生存バイアスは当初の母集団の大きさに左右されるのを思い出そう。(中略) 知る必要があるのは、当初その人が属していた母集団がどれだけの大きさだったかということだ。

(11章: デボラ・ベネット「確率とデタラメの世界」より引用) ある病気の検査をしたところ5%の割合で偽陽性が出た。人口の1000分の1がこの病気に罹る。検査は被験者を無作為に選んで行われ、病気に罹っている疑いがあるかどうかは無関係だった。さて、ある患者を検査したところ陽性だった。この患者が罹患している確率は何%か?

ほとんどの医師は95%と答えた。検査結果は95%の確率で正しいと考えて出した答えである。正しい答えはこうだ。被験者が罹患していて、かつ、検査で陽性が出る確率は--約2%だ。

以下、答えを(頻度にもとづいて)単純化して説明する。偽陰性はないものと仮定しよう。検査した被験者1000人のうち病気に罹っている人の数は1人だと予想できる。全体のうち残りの999人は健康だが、そのうち約50人は病気に罹っているという検査結果が出る(正確さは95%だから)。正しい答えは、無作為に選ばれて検査結果が陽性だった人が病気に罹っている確率であり、次の式で計算できる。

罹患している人 / 真の陽性の人と偽陽性の人の数

ここでの数字を使えば、51人に1人だ。

(11章) 価格変化の重要度は線形ではない。2%の変化の重要度は1%の変化の2倍ではない。むしろ4倍から10倍の感じだ。7%の変化なら1%の変化の数10億倍も重要だ!

最後に注釈と、膨大な文献リストがあったが、その注釈に、(少なくとも私には)著者のストレートな主張の一つが書かれていた: (うろ覚えだが) 大事なことは、確率の計算が正しくできることではなく、どのような分布・構造になっているかを知ることだ

2012-05-02

ハゲタカ, 真山仁

ダイヤモンド社 (上), (下)
2012-05-02 読了

良い意味で予想を裏切られる内容だった。

タイトルから想像するのは、とにかく金にモノを言わせて会社を買収するようなイメージ。しかしながらビジネスなのだから当たり前だが、単に資金を投入するだけでは儲かるわけがなく、事業を復活させて収益を上げたり、企業価値を高める必要がある。また、買収の過程でも、必要な情報を事前に入手すること、それを交渉の場で活かすこと、ができなければ目的を達成できない仕事だということがよくわかった。

主たる話はフィクションだろうが、そこに、現実に発生した事件など(固有名詞は【分かりやすく】変えられているが)がその時系列でからんでくるので、リアリティを感じる。

2012-02-06

ナニワ金融道, 青木雄二

2012-02-06 読了 (2回目)
講談社漫画文庫 (1-10巻)

通して読むと、初期のほうがエグイ話が多い気がするが、借金は怖いということを分からせてくれる本。かなりマニアックな話もあるが、借金返済を別のクレジットカードを使ってやるなど、よくありそうなパターンもでてくる。

どの話にも非常に特徴的なキャラクターがでてくるが、伏線をたいして使わない間にあっさりと別の話に移ってしまう、という、あるいみ太っ腹な展開もある。肉欲棒太郎など一部のキャラは再び陽の目を浴びるが、他にも再登場してその後を見てみたい人物がたくさんいる。

それにしても個性的。絵は手書き風味の超濃いコテコテ、話の内容は街金という、ある意味マイナーなところが舞台、そしてコテコテの大阪弁と下ネタ的な固有名詞。これも日本が生み出した漫画文化のひとつ。

何度書いても書き過ぎでないと思うが、借金は怖い。頭金の何倍もの金額のローンを組んでマンションを買う(しかも30年など超長期の支払い)など私には恐ろしすぎる。

2011-07-17

津波災害 減災社会を築く, 河田惠昭

岩波新書
2011-07-17 読了

始めのほうを読んだだけでも、なぜ津波高が0.5mや1mでも津波は恐ろしいのか、ということが分かった気になる。3/11の津波災害よりも前に書かれた本だが、世界中の災害を調査してきた経験から、漂流物による建物の破損とか、養殖いかだの被災などについても言及されている。防災は科学技術・政策・地域社会などで総合的に対策をとる必要がある、ということがよくわかる。

しかし土地利用などの対策をとっても、それがために街が寂れていくという可能性もあり、非常に難しい問題だ。

2011-07-15

ソーラー発電による温暖化・ヒートアイランド化の懸念

いわゆる再生可能エネルギーも、必ずしも環境に優しいわけではない。こちらの記事に分かりやすくまとまっている。

なかでも最近、某社の社長が熱心に推進しようとしているメガソーラー。上記の記事によると

順調に行けば年間740万kWhのエネルギーを産み出す、怪物級の太陽光発電施設だ。これは菅直人首相が止めた浜岡の5号基の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)の5時間半分である。浜岡原子力発電所全体では小1時間ぐらいで、この国内最大のメガソーラー1年分の電力を生み出すことができる。

という非力さ。本気でこれで原発の肩代わりをさせようと思ったら、いったいどれだけの面積をソーラーパネルで覆い尽くさなければならないのか。

もし本当にそのようなことをしたら、上記の記事で触れられているものだけでなく、地球温暖化、もしくはヒートアイランド化に相当貢献しそうだ。

というのも、太陽光は光だけでなく熱も地表にもたらしているが、白っぽい地表面では、多くの光は反射してしまうので、熱もそれほど地面に残らない。しかしながら、ソーラーパネルでは、光エネルギーを集めるために、黒っぽい色になっている。すると、発電には直接寄与していない熱まで吸収してしまう。その熱は最終的には空気を暖めるのに使われる。

都市では、ヒートアイランド現象を少しでも緩和するために、ビルの屋上に緑地を作ってみたりとけなげな努力をしているが、メガソーラーはそのような努力を一気に無にするどころか、その地域の気温上昇に確実に貢献すると思われる。

もちろん、原発事故で住めなくなる地域が出てしまうのは非常に問題だが、だからといって「自然エネルギー」(原子力も自然エネルギーだが)に欠点がないわけではない。結局、なにか一つの方法ですべてが解決することはなく、バランスが大事ということだろう。

2011-05-29

デフレの正体 経済は「人口の波」で動く, 藻谷浩介

角川oneテーマ21 (新書)
2011-05-18 頃読了

よく経済には「景気の波」があるなどという空をつかむような話がされるが(それはそれで、複雑系だからいろんな変動が出るとは思うが)、この本は人口、課税所得、小売販売額といった、生活感覚に即した、かつ、推定でなく全数実測値のある指標から、内需不振の原因が生産年齢人口の減少にあると主張している。

私も以前、生産年齢人口について述べたことがあるが、私の見方はまだまだ生易しく、首都圏ですら、生産年齢人口がどんどん減少しているということに衝撃をうけた。そりゃ車に乗れる人が減っているのだから自動車など売れなくなるのも当たり前だ。

著者はしかし解決策も提示する。移民の受け入れや「少子化」対策をやっても、数百万人単位で生産年齢人口が減り続けているのを補うには焼け石に水で、
  1. 高齢富裕層から若者への所得移転
  2. 女性の就労増加
  3. 外国人観光客の受け入れ増加
を提案している。2,3はなかなか時間がかかりそうだが、1は生前贈与を促すように税制を変更するだけなので、政治が決断するだけですぐに実行できる。

問題は「少子高齢化」ではなく「生産年齢人口減少」
著者の言うとおり、問題を正しく認識しなければ、問題解決はおぼつかない。子供手当のまえに(それすらできていないのだが)やるべきことはたくさんある。